テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
鴻上さんが伝票に手を伸ばし、私は思わず少し大きい声を発した。
「ここは! 私が支払います!」
「え? いや、これも経費だから――」
「――お願いします! 支払わせてください!!」
いきなり必死に会計したがるなんて、そりゃ鴻上さんも驚く。
けれど、私はどうしても支払いたかった。
少し乱暴に、鴻上さんより先に伝票を持つ。
「先に出ていてください」
相棒を置き去りにして、立ち上がる。
レジに行き、伝票と免許証を提示した。
「おめでとうございます。こちら、お誕生日のチケットとプレゼントになります」
スタッフが爽やかな笑顔でカフェのロゴ入りバッグとカードサイズの封筒を差し出した。
「ありがとうございます!」
この店で佐藤さんと会うことになり、楽しみにしていた。
私は会計を済ませ、プレゼントをバッグにしまい、くるっとドアに身体を向けると、鴻上さんがドアを開けて待っていてくれた。
紳士だ……!
私は感激しつつ、店を出た。
「さっき、誕生日がどうとか聞こえたんだけど?」
車に乗ってすぐ、聞かれた。
「はい! 私、明後日誕生日で――」
私は、会計をしたがった理由を話した。
この店では、誕生月に千五百円以上の会計をすると、次回使えるチケットとロゴ入りタンブラーが貰える。
チケットを使うと、好きなラテに『HAPPY BIRTHDAY!』の文字を描いてもらえる。
チケットはもちろんだが、私の真の目的はタンブラー。
ちょうど、会社で使っていたマグカップの縁が欠けてしまって、新しいのが欲しかった。
誕生日プレゼント限定の七色タンブラー。
開けるのが楽しみすぎる。
「――明後日って土曜だよな? 予定は?」
「え? あ、はい」
「……そりゃ、そうか。そうだよな……」
鴻上さんの反応に、あれ? と思った。
そして、つい数秒前の彼との会話を思い出す。
誕生日に予定があるかと聞かれ、はいと答えた。つまり、ある、と。
確かに、ある。が、この流れからすると、鴻上さんは私を誘おうとしてくれたのだろうか。
いや、待て、仕事!
そうだ。
視察に行けるかの確認じゃないのか。
専務にも恋人がいるか、休日に動けるかなど聞かれたではないか。
「あ、予定と言っても大したものではないので、仕事は大丈夫です」
「え?」
鴻上さんの反応に、おかしなことを言っただろうかと心配になる。
キュキュキューッと急ブレーキの音が聞こえた。ハッとして窓の外に目を向けたが、原因は見えなかった。
「乾さん、誕生日の予定は?」
改めて聞かれ、鴻上さんに視線を戻す。
彼は、少し前のめりになって私を見ていた。
「えっと、ケーキかパフェの美味しいお店に行こうかと思ってました。それと、ブラッと買い物にでも行こうかと」
寂しいひとりバースデーの予定を口にすると、余計に寂しさが増した気がする。
もう何年もそうして過ごしているし、今更なのだが、言葉にすることで相手に寂しい女だと思われてしまうから、私も寂しいと思ってしまう。
けれど、卑屈になりたくはない。
私はシートベルトをギュッと握って笑った。
「けど、それはいつでも行けますから! 週末はランチの視察ですか? 平日とはスタッフも客層も違いますから、大事で――」
「――俺も一緒に行っていい?」
「え?」
「乾さんの誕生日、俺も一緒に出かけていい? 車出すし、荷物持ちもするよ」
「はぁ……」
思いもよらない申し出に、私は首を傾げる。
「視察では?」
「視察はまた次の週末にでも。明後日はプライベートで乾さんの誕生日を祝わせて?」
私の真似なのか、首を傾げてにっこり微笑む極上イケメンさんに、私の心臓は鷲掴みどころか思いっきり握り潰されたのではと思うほどのダメージを受けた。
いやいやいやいや!
惚れてまうやろ!!
「さ、じゃ、行こうか」
私の動悸息切れ発汗症状に全く気付くことなく、車を走らせる。
なんて罪作りな相棒なの!
私はシートベルトをきつくきつく握りしめ、呪文を唱えた。
私は相棒。
彼は相棒。
絶対、本気で好きになってはいけない。
私は、相棒。
彼は、相棒……。
それでも、誕生日を鴻上さんと一緒に過ごせると舞い上がる鼓動は、鎮められなかった。
コメント
2件
良いじゃないの。素敵な人と誕生日を一緒に過ごして楽しんで来て😊
わぁ😍素敵な誕生日になるといいなぁー✨🎂