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コメント
2件
良いな。綺麗なだけの女の人よりも、ずっと人間的で好き🎵
黎琳さんの裏の顔はオッサン(*´艸`) 意外な素顔ですね🤣
*****
いやいやいやいや!
惚れてまうやろ!!
『優しい性格だったり、字が綺麗だったり成績が良かったりは、鴻上さん自身の心がけや努力があってじゃないですか。そもそも! 鴻上さんは全然残念じゃないですよ! 当時、私がその場にいたら、鴻上さんを残念だなんて言う人の言い分を全力で全否定したのに!』
もう、何度反芻したかわからない、我が相棒の言葉。
嬉しかった。
すごく、嬉しかった。
出会ってたった一週間。
出会えてやっと一週間。
なのに、俺の中で乾さんの存在は、今や俺にとって最重要案件だ。
「可愛いわよねぇ、るりちゃんて」
唐突に耳元で囁かれ、ハッとした。
「なんだよ、黎琳」
「なにが?」
「急に――って、『るりちゃん』?」
つい昨日まで『乾さん』と呼んでいた。
黎琳はフフンッと勝ち誇ったように俺を見下ろした。
見下ろしているのは、俺が座っていて、彼女が立っているからなのだけれど。
「『私だけお名前を呼ばせていただくのは恐れ多いので、よろしければ私のこともるりと呼んでください』って。ホント、可愛いわよねぇ」
頬に手を当て、ほうっとため息をつく。
「それでね、私がるりちゃんって呼ぶと、顔を真っ赤にして。もうっ、あのほっぺとか食べちゃいたい!」
確かに、乾さんのほっぺは柔らかくてすべすべだ。
比喩的な意味でなく、本当に口に入れたくなる。
熱に浮かされた彼女の頬を撫でた時の感触を思い出し、俺はゴクッと喉を鳴らした。
「な~に物欲しそうな顔してんのよ! や~らし~~~」
肘でこめかみを小突かれる。
「うっせーな! それより、誉はまだかよ」
「さぁ? 事故で渋滞にハマって訪問キャンセルになった上に帰っても来られないなんて、私の言うことを聞かない上に日頃の行いが悪いから――」
ヴーヴーッとジャケットのポケットでスマホが着信を知らせた。
見れば、乾さんからだった。
俺は黎琳に断ることもせずに電話に出た。
彼女からの着信は初めてだ。
「もしもし?」
『お疲れ様です、乾です。お仕事中にすみません』
乾さんはひそひそと、早口で挨拶をした。
デスクを離れてどこかに隠れているのだろうか。
実に礼儀正しいが、実に他人行儀で悲しくなる。
「全然大丈夫だよ。どうした?」
『はい、あの、私の考え過ぎかと思ったのですが、どうしても気になってしまって』
「うん?」
『専務のことですが』
「専務?」と復唱しながら、黎琳を見やる。
黎琳も、俺をじっと見る。
『朝、お出かけする専務を見かけたんですけど、その、なんかちょっと、できれば、あの――』
「――嫌な予感でもした?」
『…………はい』
「前みたいな、すごいのじゃないんでしょ?」
『はい。ちょっと、外出はやめた方がいいんじゃないかな、とか思ったくらいなんですけど。でも、なんか気になってしまって。すみません』
「なんで謝るの? 大丈夫だよ。専務ね、渋滞に巻き込まれたみたい。それだけだから、大丈夫」
黎琳は、俺がなぜ乾さんに専務の話をしているのかが不思議なようだ。
『それだけって、でも――』
「――優秀な秘書殿の言いつけを守らずに、早めに出発しなかった罰だよ。自業自得。だから、ホントに気にしないで」
『そうですか』
電話越しにも、彼女がホッとしたのがわかった。
今夜の視察の時間を確認し、会話を終えた。
「どうしてるりちゃんが専務のことを?」
「出かけるところを見て、嫌な予感がしたらしいよ。渋滞に巻き込まれただけだとわかってホッとしたみたい」
「へぇ。ホントによく当たるのね、るりちゃんの『勘』」
「うん。でも、乾さんには言うなよ? 悪いことにばっかり勘が働くこと、気にしてるみたいだったから」
「わかってるわよ。私も、可愛いるりちゃんを悲しませたくないもの」と言いながら、黎琳は専務室のキャビネットの一番下の扉を開けた。
中には小さな冷蔵庫が入っている。
冷えた缶コーヒーを二本取り出すと、一本を俺に渡し、一本を自分で開けた。
「つーか、なんで相棒の俺が名字呼びなのに、たいした接点もないお前が名前呼びなんだよ」
「悔しかったら名前で呼べる仲になったらいいじゃない」
「簡単に言うなよ」
「明日のるりちゃんの誕生日にデートするんでしょ? チャンスじゃない。名前で呼び合って手を繋いで。ついでにあんたの下の棒とも繋がって――」
「――黎琳!!」
この会社の誰も知らない、いや、専務と俺しか知らない黎琳の正体。
名前負けしてない顔立ちとスタイルから想像できないが、つらっと下ネタを連発するのだ。
それも、おっさん臭い下ネタばかり。
「せめて会社で下ネタはやめろ」
俺は頭を抱えて盛大にため息をついた。
「いーじゃない。凱人しかいないんだから」