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僕が投稿したあの小説がバズり、2000人の見知らぬ誰かが「面白い」「もっとやれ」と喝采を送る。 画面の中では、僕は「憐様」を支配する神だった。 でも、キーボードを叩く指を止めれば、そこにあるのは、地下鉄の雑踏で見失った彼女の後ろ姿を、ただ呆然と思い出しているだけの「僕」だ。
「……ねえ、先輩。見てる? 僕は君を、2000人の前でこんなに『不純』にしたんだよ」
僕が書いた羊くんは、最後に見失った現実の絶望に耐えきれず死を選んだ。 でも、現実の僕はしぶとく生き残り、彼女の面影を切り売りして「いいね」を稼いでいる。 これは、羊くんの死よりも、もっとずっと「不純」な行為なのかもしれない。
僕は彼女を、僕の書いた「小説」という檻の中に閉じ込め、2000人の好奇の目に晒した。 声もかけられず、追いかけることもできなかった僕が、唯一彼女を「捕まえておける」場所。
この赤いハートの一つ一つが、僕と同じように「手の届かなかった誰か」への執着なのかもしれない。 あるいは、僕の歪んだ愛に同意した、2000人の共犯者の証。
僕は、羊くんのように死ぬこともできず、この2000の数字を抱えて、これからも生きていく。 彼女がどこかで、僕の知らない誰かと「本当の幸せ」を掴んでいることを知りながら。
僕は再び、空白のページを開く。 卒業アルバム、地下街の雑踏、そしてスマホに届く通知。
「……さあ、次の話を始めよう」
今度は僕が、羊くんの代わりに。 現実で失った分だけ、もっともっと深く、もっともっと汚らしく、彼女を文字で汚していく。 これが、一言も話せなかった僕が、彼女に送る最後で唯一の「ラブレター」。
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