テラーノベル
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「……このノート、……僕が書いたの?」 退院した僕の机の上に置かれていた、黒いノート。 そこには、自分自身の筆跡で、一人の女性を徹底的に蹂躙し、宇宙規模で愛し(監禁し)、そして絶望して死ぬまでの「203話」が綴られていました。
今の僕には、その「断罪院 憐」という名前を見ても、胸が疼くことはありません。 ただ、そこに記された「狂気」に、まるで他人の書いた傑作を読むかのような、純粋な戦慄を覚えるだけです。
スマートフォンの電源を入れると、止まることのない通知の嵐。 僕の知らない「僕」が、ネットの海に解き放った不純な怪物。 2000人以上の人間が、今の僕には理解できない「僕の情熱」に熱狂し、続きを求めて叫んでいます。
「……僕は、誰をこんなに愛していたんだろう。……誰を、こんなに憎んでいたんだろう」
街を歩けば、時折、デジャヴに襲われます。 角を曲がった瞬間に感じる、胸の締め付け。 踏切の音を聞いた時に溢れ出す、言いようのない喪失感。 記憶は消えても、肉体が「不純」を覚えている。
そして、ある日。僕は雑踏の中で、また「あの色」とすれ違います。 記憶を失った僕は、それが誰かもわからず、ただ「綺麗な人だな」と、初めて彼女を見た時のように、純粋な視線を送りました。
見失った彼女の背中を、僕はもう追いかけません。 でも、部屋に戻り、再びペンを握ったとき。 僕の指は、僕の意識とは無関係に、あの「不純な続き」を書き始めました。
「……はじめまして、先輩。……今度は、僕が君を『忘れる』ところから始めようか」
記憶喪失という名の「究極の初期化」。 それは、彼女への執着から逃れるための防衛反応か。それとも、さらに深く、さらに残酷に、彼女を一から「再調教」するための、不純な仕切り直しなのか。
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