テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
詩帆はさりげなく涼平に視線を向けると、綾に話しかけられた涼平は笑顔で綾と会話をしている。
詩帆はそんな二人の様子を見てなぜか心の中がもやもやしてくるのを感じていた。
(夏樹さんはただのお友達でしょう?)
詩帆はそう自分に言い聞かせると、美奈子との会話に集中した。
美奈子との会話はとても楽しかった。美奈子はフラダンスの講師を目指している。
いずれは本場ハワイへ留学してもっとダンスの腕を磨きたいと言った。
その為に、今はファミリーレストランでアルバイトをしながら留学費用を貯めていると言った。
美奈子の話を聞いた詩帆は、自分もカフェでアルバイトをしながら、
絵の道で生計が立てられるようになりたいと思っていると話した。
詩帆の話を聞いた美奈子は、種類は違えど自分達の目指している方向は一緒みたいねと嬉しそうに微笑む。
そんな美奈子に詩帆は正直に伝える。
最近絵に対する情熱が欠けていたのを反省して、今はあえて絵を描く時間を設けるようにしていると話すと、
美奈子は、
「そうよ、その調子!」
と言って励ましてくれた。
二人は「モチベーションをいかに保っていけるかが鍵よね」という意見で一致した。
美奈子が連絡先を交換しましょうと言ったので、詩帆は快く美奈子と連絡先を交換した。
今度食事にでも行って、将来の夢について語りましょうと言われたので、詩帆は是非と言って喜んだ。
美奈子は目標に向かって突き進んでいくパワーに満ち溢れていた。
詩帆はそんな美奈子から刺激を受け、自分ももっと頑張らねばと思った。
そこへ、先程優子に紹介されたサーファーの男性が二人がやって来て詩帆達の前に座った。
そして一緒に飲みましょうと話しかけて来た。
30代だと思われる男性二人は女性の扱いに慣れている様子で、日焼けした肌とさわやかな笑顔が魅力的だ。
美奈子はそんな二人と嬉しそうに話をしていたが、詩帆は元々人見知りなので話しを聞いているだけだった。
そんな詩帆に片方の男性が話しかけてきた。
「詩帆ちゃんだよね? さっきの絵、すごく上手かったね。いつも海で絵を描いているの?」
「はい、晴れた日には毎朝行っていました」
「そっかー、朝描いていたのかー。どうりで会わない訳だ。じゃあ今度は夕暮れ時においでよ。僕は夕方から海にいる事が
多いから。ね、連絡先、聞いてもいいかな?」
連絡先を聞かれた詩帆は戸惑っていた。
あまりよく知らない人に連絡先は教えたくないなと思っていると、傍に誰かが近づいて来る気配がした。
詩帆が顔を上げるとそこには涼平が立っていた。
「河内さーん、詩帆ちゃんは俺の大事な人なんですからあまり誘惑しないでくださいよー」
涼平の言葉を聞いた河内は驚いて聞き返す。
「えっ? だって、おまえあれだろう? お前は菜々子さんの事がまだ……」
「ハハハ、あれはもう昔の事ですから。さ、詩帆ちゃん、あっちへ行こう!」
涼平はそう言ってから詩帆の手を取ると、庭へ続く扉の方へ向かった。
そして詩帆と手を繋いだまま庭へ出た。
外の空気は少しひんやりとしていた。
もう外は暗くなっていたが、部屋から漏れる明かりと庭にあるガーデンライトでほんのりと明るかった。
涼平は手を繋いだままウッドデッキを進み、デッキの端にある白いテーブルセットまで行くとそこへ詩帆を座らせる。
そして足元のバスケットに入っていたひざ掛けを詩帆の膝にかけると、ちょっと待っててと言って部屋へ戻って行った。
そしてしばらくしてからワインと料理の載ったトレーを手にして戻って来た。
そして、
「ここでちょっと飲もうか」
と言ってテーブルにトレーを置く。
詩帆は「ありがとうございます」と言ってワインを一口飲んだ。
そこでやっとホッと一息つけたような気がした。
「初めて会った人がいっぱいいたから緊張したでしょう? 大体みんないい奴なんだけれど、さっきの河内さんは女性トラブル
が結構多いから気を付けてね」
そう詩帆に言った後続ける。
「あ、ビンタされた俺が言っても説得力に欠けるよね……」
その言葉に思わず詩帆も声を出して笑った。
そして涼平に聞いた。
「ビンタの原因は、何だったのですか?」
涼平は一瞬ドキッとした顔をしてから慌てて言った。
「いやね、あれは全部俺が悪いんだよ。関係性をうやむやにした俺に責任がある」
言い終えるとハーッとため息をつく。
しかし詩帆はその意味を良く理解できないまま言った。
「男女の関係ってなんか難しくって私にはよくわかりません。私、そういう深いお付き合いってした事ないから。だから悩んだ
り出来るのもある意味羨ましいです」
詩帆は話し終えてから「しまった!」という顔をした。
そして慌てて弁解する。
「私、ずっと女子校育ちで大学も女子だけの美大だったんです。あと、昔から相手の考えている事やついた嘘、相手が今どんな
気分かっていうのが全部わかってしまうという変な特技があって、いつもそれが原因でちゃんと付き合う前に破綻するんです。
だから夏樹さんが仰っているようなつき合っている時の感覚のようなものがよくわからないのかもしれません」
「え? という事は、詩帆ちゃん今まで男性とお付き合いした事がないの?」
涼平がかなり驚いた様子だったので、詩帆は、
(またやっちゃった)
と自分を恨む。
詩帆の過去の経験から、誰ともお付き合いした事がないと話すと、大抵の男性は一気に引くか、反対に一気に身体の関係を迫っ
てくるかの両極端だった。この間の加藤は後者だった。
だから、男性経験がないと言う話はなるべく言わない方がいいのだとわかっていたのに、またつい口を滑らせてしまった。
詩帆は自分の愚かさを心底呪った。そして諦めたように涼平に答える。
「はい。私、男運がないみたいなんです」
詩帆はそう言って寂しそうに笑った。
コメント
2件
男運がないかぁ…一歩引いて見ちゃって前に進めないのかなぁ…お付き合いって難しいよね😓 でも涼平さんとはスムーズにお話しできて詩帆ちゃんもリラックスしてるよね❣️ 嘘もつかないしね,涼平さんなら大丈夫🙆
詩帆ちゃんは真面目で正直で、嘘がつけないタイプなのかな.... 確かに加藤のような下心のある男性に お付き合いの経験が無いことがバレるのは非常に危険ですね~😱 涼平さんは 大丈夫‼️ きっと詩帆ちゃんを守ってくれるはず....🥰💖