テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
外の世界へ出るため、洞窟の出口へ向かう――その途中。 レイの前に大きな影が立ちはだかった。
全身黒ずんだ巨大な狼のようなモンスター。
鋭い牙が剥き出しで、洞窟内に唸り声が響く。
「……嘘だろ……!?」
背筋に冷たいものが走る。レイは思わず後ずさりする。
「く……こ、こんなの俺、勝てるわけ……!」
(落ち着け、レイ!敵から目を逸らすな!)
「だ、だって……俺、戦闘なんてまともにしたことないんだ!どうすりゃいいんだよ!」
(逃げてどうする。ここでお前が諦めたら、本当に何も変わらないままだ。お前自身がこの先へ進みたいと思わないのか!?)
「……っ!」
(さあ、思い出せ。お前は“ここから出たい”“生き抜きたい”……その命の願いを、今こそ黒煙に込めろ!)
レイは両膝が震えながらも、右手を前に突き出し、必死に叫ぶ。
「いけ!シャドウ・イグニス!」
真っ黒な煙が腕から噴き出し、モンスターの全身を包み込む。
しかし、狼型モンスターは大きく身を振ると煙を吹き飛ばし、吠え声を上げて飛びかかってきた。
「くっ、効いてないのか!?もう一発、もう一発……!!」
レイは慌てて後ろに下がりながら、繰り返し黒煙を放つ。
それでも敵は執拗にレイへ襲いかかる。牙が顔のすぐ横を掠め、鋭い爪が地面を割る。
「怖い……けど、やるしかない!」
「シャドウ・イグニス! シャドウ・イグニス!」
何度も、何度も腕から黒煙を噴き出し、モンスターに浴びせかける。
肉体の感覚が薄れていくほど、ひたすら魔力を振り絞る。
(そうだ、その気迫だ!今、全てを解き放て!)
不意にレイが踏み出した一歩、その瞬間、黒煙がかつてない濃密さとなり、モンスターの足元から絡みつくように広がっていく。
そのまま足を動けなくしたモンスターめがけ、「最後だあぁっ!」と思いきり煙を浴びせると、黒煙に包まれた肉体がじわじわと淡い灰に変わり、崩れ落ちていく。
――静寂。
気づけばレイは体じゅう汗まみれで、その場に崩れ落ちていた。
「はぁ……はぁ……終わったのか、俺……俺、やったのか?」
(やったな、レイ……!自分の力だけで突破したんだ。もう、お前はただの落ちこぼれじゃないぞ)
「……信じられない。あんなに怖かったのに……でも、逃げなくてよかったんだな」
(恐怖を乗り越えた時、人は本当の強さを手に入れるものだ。忘れるな、今の痛みも、達成感も)
「ありがとう、シルフ……俺、これからも進むよ。もっと強くなる。必ず、この洞窟を抜けてやる!」
(ああ、その意気だ。新たな世界が、お前を待っている)
まだ足元がふらつきながらも、レイは前を向いた。
黒煙が、ひんやりした洞窟の空気に溶けてゆく。
少年の“覚悟”とともに、物語はさらに歩み始めるのだった――