健吾はソファーに座ると、
「ちゃんと淹れた日本茶なんて久しぶりに飲むなぁ」
と言って早速一口お茶を飲む。
「えっ? 普通のお茶ですよ? もしかしてお家でお茶も淹いれないの?」
「うん。いつもペットボトルのお茶!」
それを聞いた理紗子は呆れた顔をした後クスクスと笑った。
そしてエプロンをつけながら、
「もしかしてお食事もレトルトカレーばかり?」
「あ、配信中のアレを見られたか! 普段は外食か宅配が多いよ。その合間でレトルト? だってさ、証券会社から毎月山
ほどレトルト食品が送られて来るんだよ。食べても食べても減らない。前は妹や友達に配ったりしてたんだけど最近はもういら
ないなんて言われちゃうし…….あっ、良かったら君にも今度あげるよ」
「本当ですか? わっ、嬉しい! 私、今日みたいに余裕がある日はちゃんと作りますが、締め切りに追われるとレトルトで済
ませちゃうからいただけると助かるー」
「じゃあ今度持って来るわ。貰ってくれると逆にありがたい」
「ありがとうございます。では遠慮なく」
理紗子は満面の笑みで言うと、早速料理を始めた。
健吾はローテーブルに積んであった雑誌の中から一冊手に取り読み始める。
それは男性ファッション誌だった。
「男向けの雑誌も読むんだね」
「あ、はい。小説の参考にたまに買いますね。ネットの情報だけだと足りない時があるので」
「小説を書くのも色々下調べが必要なんだ」
「はい。特に自分の知らない分野に関してはよく調べてからでないと書けないので」
「そういえばうちの妹が君のサインを欲しいと言っているんだけれど、今度頼んでもいいかな? 今は手元に本がないので次回
持って来るから」
「もちろん。本ならうちにいっぱいあるのでそれを持って行って下さい」
理紗子は料理の手を止めると奥のベッドルームへ向かった。
そしてすぐに二冊の本を持って来る。
本は理紗子のデビュー作の初版本だった。
「出版社からいただいたものが沢山あるので。後でサインしますから」
そう言って健吾の前に本を置く。
「ありがとう。二冊も貰っちゃっていいの?」
「もちろん。まだいっぱいありますから」
理紗子は再びキッチンへ戻った。
それからしばらくして水炊きの支度が終わった。
理紗子はカセットコンロをダイニングテーブルへ持って来ると火を入れる。
その上に土鍋を置き、横に野菜などの材料が載った大皿を置いた。
ランチョンマットを敷き、猫の箸置きの上に箸を置く。
「飲み物は…….ビールはやめておいた方がいい?」
「いや、鍋にはビールでしょう!」
健吾はニッコリして言うと、ダイニングテーブルへと移動した。
理紗子は冷蔵庫で冷やしておいたグラスとビールを持ってくる。
そしておつまみにキュウリと大根と人参の糠漬けを盛りつけた皿、それに枝豆も持って来た。
「糠漬けか」
思わず健吾がそう叫ぶと、理紗子が言った。
「私糠漬け好物なのでいつも漬けてるんです。発酵食品だから胃にもいいかも?」
健吾は思わずにっこりする。
なぜなら健吾も糠漬けが大好きだったからだ。
鍋の材料に火が通るのを待つ間、二人はビールで乾杯をした。
そして糠漬けをつまみに飲み始める。
「プハーッ! やっぱ美味うまいわ」
「夏のビールは最高ですよね」
「この糠漬けも美味い」
「良かったです」
「田舎は福岡?」
「そうです。佐倉さんは?」
「俺は東京の世田谷。世田谷って言っても高級じゃない地域の世田谷だけれどね」
健吾はそう言って笑った。
「世田谷って全部が高級なイメージだけど?」
「そんな事ないよ。多摩川の近くって言ったらいいのかな? わりと庶民派な世田谷ね」
「そうなんですか? え、でもなんか芸能人とか多そう!」
「実家近くのデパートではちょくちょく有名人に会うよ」
「あっ、やっぱり高級住宅街じゃないですか!」
理紗子がムキになって言ったので、思わず健吾が笑う。
その頃ちょうど水炊きが食べ頃になったので、理紗子は健吾の皿に取り分けてあげた。
「ポン酢で大丈夫ですか? 大根おろしもお好みで。大根は胃腸にいいですから。あ、あと柚子胡椒もあったかも」
理紗子はそう言いながらキッチンへ行き冷蔵庫から柚子胡椒を取って来た。
健吾は早速熱々の鶏肉と野菜を食べ始めた。
「美味うまいなー」
「良かった。でも材料を切って鍋で煮ただけなんですけれどね」
「いやいやそれでも充分美味い。30後半になるとこういうシンプルで素材を生かした系がグッとくるよね」
「佐倉さんは普段から美味しいものばかり食べていらっしゃるからそう感じるんですよ。たまにだからいいんです、きっと」
理紗子はそう言って食べ始める。
熱々の鶏肉をフーフーしながら頬張る様子は、見ていてとても可愛らしかった。
コメント
5件
糠漬けにビール、最高ですね~勿論 水炊きも....😋カンパーイ🍻♥️
もうこういう何気ないのがいい‼️お互い飾らずとっても自然体😊健吾はもう更にメロメロだね😍2人共に運命の人✨✨✨
理沙ちゃんお手製の水炊きもしっかり健吾さんの胃袋掴んじゃったね🤭🍲理沙ちゃんが今までにいないタイプで2人とも取り繕ってない自然な空気だから健吾さんの側にお似合いなのは理沙ちゃん❣️って思える〜💕