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美空は、自己紹介を始めた。
「小島美空です。結衣と一緒の職場で、歳も同じです。あとは…….」
久しぶりの合コンで少し緊張していた美空は、次に何を言えばいいのかすっかり忘れてしまう。
そこで、結衣が助け舟を出した。
「美空、趣味、趣味!」
「あっ、そうだ。えっと、これは趣味といえるかどうかわかりませんが、星を眺めることが好きです。よろしくお願いします」
美空はペコリとお辞儀をして、短めに自己紹介を終えた。
パチパチパチパチ……
その時、拍手を遮るように声が響いた。
「星が好きなの?」
その声は、窓際に座っている萩原夏彦のものだった。
シルバーフレームの眼鏡をかけた夏彦は、加藤に騙されて合コンに来た男性だ。
「はい。星を見て星座を探すのが好きなんです」
「へぇ、そうなんだ」
そこで、加藤が驚きながら言った。
「おおっ? いつもは無口な夏彦が自分から質問するなんて珍しい! あ、そうか! お前、天文オタクだったもんな」
『天文オタク』と聞いて、美空は顔を上げた。
しかし、同時に玲奈も反応して、先にこう口を開いた。
「天文オタクですか?」
「そう。夏彦の家にはね、高そうな望遠鏡とかカメラとか、なんかよくわかんない機材が山ほどあるんだ」
「えぇーっ、すごいですねぇ」
玲奈は大袈裟に反応した。先ほどは自転車に興味があると言っていたのに、今度は天文の趣味に興味を示していた。
(もしかして彼女も星が好きなのかな?)
美空がそう思っていると、加藤が続けた。
「夏彦はガチの天体オタクだから、高価な機材をいくつも持っているんだよ。ほら、あれ、なんて言ったっけ? 三脚に載せてカメラをくっつけるやつ」
「赤道儀?」
思わず口をついて出た美空の言葉を聞き、夏彦が反応した。
「赤道儀、分かるんだ?」
「はい。持ってないですけど」
「使った事は?」
「ないです。あ、でも、天文台が主催する観望会で触らせてもらったことはあります」
「そうなんだ」
二人の会話を聞いて、玲奈が面白くなさそうな顔をしていた。
玲奈は、どうやら夏彦狙いに変えたらしい。
(彼女は彼のことが気に入ったのね)
美空はそう思いながら、天文趣味のことを言わなけれがよかったと後悔した。
今日は脇役に徹しようと思っていたのに、つい『天文』という言葉が出たので反応してしまった。
幸い、夏彦とは席が離れていたので、その後二人が直接会話をすることはなかった。
それに安心した玲奈は、その後も必死に夏彦に向かって話しかけていた。
そうこうしているうちに、時間は過ぎていく。美空は結衣を交え、前に座る会田や植田との会話を楽しんだ。
もちろん、お目当ての北海道料理もしっかりと味わっていた。
テーブルの上には、チャンチャン焼きやホタテのカルパッチョ、イカ飯やオホーツク塩焼きそば、ザンギ、じゃがバターなど、北海道の美味しいものが並んでいた。
美空は食べるのに大忙しだった。
お腹がいっぱいになり美空が一息ついていると、目の前に座る会田が身を乗り出し彼女にこっそり言った。
「実は僕、彼女がいるんだ」
「えっ? そうなんですか?」
美空は驚いた。すると、会田は続ける。
「人数が足りないから加藤に頼まれちゃってさ。ごめんね、騙して」
黙っていればバレないのに、わざわざ正直に教えてくれる会田に対し、美空は好感を持った。
(正直に教えてくれたから、悪い人ではないのかも?)
そこで、美空も会田にこう告げた。
「実は私も人数合わせで来たんです。今、特に出会いは求めていないので、そろそろ帰りたいなーって」
「え? そうだったんだ」
「はい」
「出会いを求めてないっていうことは、彼氏がいるってこと?」
「いえ、いないです。でも、今はそういうのはいいかなーって」
「ハハッ、そうだったんだ。まあ、美空ちゃんはまだ若いし焦ることもないもんね」
「はい」
「もう帰りたいと思っている時点で、俺たちは似た者同士だなー」
会田が肩をすくめて言ったので、思わず美空は声を出して笑った。
その笑い声に気付いた他の六人が、一斉に二人の方を見た。
「二人で楽しそうに何を盛り上がってるんですかぁ?」
玲奈がわざとらしく聞いた。それは美空が会田と盛り上がっているのを夏彦に知らせたいという意図があるように思えた。
しかし、どう思われようがまったく気にならない美空は、笑顔で答えた。
「内緒でーす!」
美空が会田に向かって目くばせをすると、今度は会田が六人に向かって言った。
「せっかくだけど、俺達意気投合しちゃったから先に消えるよ! 後は六人で楽しみたまえ!」
「「「えぇーーーーーっ!」」」
他のメンバーから驚きの声が上がる。
美空は一瞬驚いたが、早く帰れるチャンスを逃してなるものかと、会田に話を合わせることにした。
「じゃあお先に! 結衣、またね!」
「ええーっ、美空、本当に帰っちゃうのー?」
「ごめんねー」
「じゃ、行こうか」
美空と会田は席を立って出口へ向かった。
そんな二人の後ろ姿を、夏彦が驚いた表情でじっと見つめていた。
店の外に出た美空は、会田に礼を言った。
「会田さん、ありがとうございました。お陰で早く帰れます」
「こちらこそ! 実は僕も彼女から電話がかかってくるから、それまでに抜け出したかったんだ。君をダシに使ってしまって申し訳ない」
「いえ、お気になさらずに。じゃあ、私はJRなので」
「うん、僕は地下鉄だから。じゃあ、気を付けて帰ってね」
「はい、おやすみなさい」
美空は会田に軽く会釈をしてから、JRの駅へ向かった。
コメント
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天文オタクの夏彦くんは赤道儀って言葉を知ってる美空ちゃんに興味津々だけど、玲奈が夏彦くんをターゲットにしたのに気づいてか、無駄に関わりを持ちたくなさそうな美空ちゃんはすかさず食い気に走ったね🥗🍽️🤭 会田さんも彼女持ちで人数合わせ?で2人でうまく帰れたのはラッキー🤞 さぁ夏彦くんはどうやって玲奈を巻いて美空ちゃんにアプローチするのか楽しみだわ〜♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)♪
夏彦気になりまくってますねー、(笑)
あぁ、じゃがバター じゃがいも料理を作れと言われてる気がして来た。 夏彦さんは天文繋がりで美空ちゃんが気になる様子ですね*:..。o○☆゚ こちらの加藤さんは良い加藤らしいので、この後キューピッド役でもするのかしら。