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次の日、美空が出勤すると、ロッカールームで結衣が待ち構えていた。
「ちょっとちょっと昨日はどういう事?」
結衣は美空ににじり寄る。昨夜、美空と会田がその後どうなったのかが気になっているようだ。
しかし、周りに他の社員達もいるため、この場では話せない。
「今日はランチ外だったよね?」
「それまでお預け~? いやーん待てない!」
「でも、今時間ないよ」
「わかったわ。じゃあ11時半に一階に行くね」
「オッケー! じゃあ後でね」
結衣は昼休みに話を聞けると分かり、満足した様子でロッカールームを出ていった。
「ふぅーっ…」
美空は思わずため息をついた。
話すと言っても、結衣が期待するような話は何もない。ただ、互いの思惑が一致したので、先に帰っただけなのに……。
美空はそう思いながら、階段を降り、売り場フロアへ向かった。
今日は土曜日なので、店内はショッピングを楽しむ人々で賑わっていた。
美空は午前中だけで、数組の接客をこなした。
来月が母の日ということもあり、プレゼントを探しに来る客も多い。美空は予算や相手の年代に応じて適切な品を提案していった。
11時を過ぎると、少し早めのランチへ向かう客が増え、店内はだいぶ落ち着いてきた。
11時半になると結衣が迎えに来たので、美空は同僚に一言告げてから外にランチに出た。
二人が向かったのは、大通りから二本目の裏通りにある馴染みのカフェだ。
店内は思っていたより空いていたため、二人は一番奥のゆったりした窓際の席へ座った。
「何にする?」
「私はオムライス!」
「だよねぇ……うーん、私もそうしようっと!」
結衣は悩んだ末、美空と同じオムライスにした。
注文を終えると、結衣はさっそく前のめりになり、美空に尋ねた。
「昨日はびっくりよ! 急に会田さんと帰るって言うんだもん。みんなも驚いてたよ~」
「あれは違うの! 会田さん、実は彼女がいるんだって。で、彼女からの電話が来る前に帰りたかったみたいで、私も早く帰りたかったから、二人で示し合わせて帰ったってわけ!」
「え、そうなの? なんだ~てっきり二人が意気投合したんだと思ってたよ。それにしても、会田さん正直だね。彼女がいるなんてわざわざ言わなくてもいいのに」
「私もそう思った。律儀な人だよね」
「まあ昨日のメンバーは、みんないい人だったよね。ああ見えても加藤は結構誠実で信頼できるしさ」
「昔から知ってる友達なら安心だよね。それより、結衣はあの後どうなったの?」
「うん、植田さんと連絡先交換したよ」
「やったじゃん! 植田さんを見た時、あ~結衣のタイプだなぁって思ったもん」
「えへへ、バレてたか! 顔がドストライクだわ♡」
「でも良かったね~。今後どうなるか楽しみ~」
「それはそうと、玲奈ってわかる?」
「うん。一番奥の人だよね? すごく綺麗な人」
「そう。でもさ、あいつ、ヤバくない?」
「ん? 何が?」
「最初は植田さんに粉かけてたのに、途中から萩原さん狙いに変わったでしょう? まあ私としては助かったけど、でもすごいよねぇ、そのガッツリ感が!」
「たしかに、最初は自転車に興味があるって言ってたのに、途中から星に変わったよね。彼女、私と同じで天文好きなのかなぁ?」
「違う違う! あいつが天文好きなわけないじゃん! あの子が好きな星なんて、せいぜい星占いくらいだよ。実はあれがあの子の昔からのやり方なの! 興味を持った相手の趣味にとことん食らいついていくの。本当は興味なんてこれっぽっちもないのに、ロックオンした男の趣味には全力で反応するんだから~」
結衣の説明を聞いて、美空は驚いていた。
「わ、すごっ! それは、ちょっと引くな~」
「でしょう? それにアイツは常にお金で物事を考えるタイプだからね~。ほら、自転車の趣味って結構お金かかるでしょう? だから最初は植田さんに反応したけど、萩原さんの天文の趣味の方がもっとお金がかかってるって思ったんじゃない? つまりあの子は、たくさんお金を持っていそうな方に流れたってわけ」
「すごいね……でも私には理解できないよ」
「美空だけじゃないよ、誰だって理解不能だから安心して! それに、玲奈は昔から頭がいい人にも弱いの。あのメンバーの中では、萩原さんが一番賢そうだったから、たぶん気に入ったんだと思う。美空が帰った後も必死にアプローチしてたけど、適当にあしらわれていたから見ていて笑っちゃった」
「へぇ、そうなんだ……」
「でさ、ここからが本題なんだけど、今度みんなで星を見に行こうって話が出てるんだけど、美空も参加しない?」
「星?」
「うん。玲奈が『星を見に行きたーい♡』って萩原さんにしつこく迫ったのよ。それで、どうせならみんなで行こうっていう話になったの。萩原さんがよく行く天文台付きのロッジがあるらしくて、そこに行って星空を眺めようっていうことになったんだ」
「天文台付き? それはどこにあるの?」
「長野県の……なんていったかなぁ? なんとか村……」
「もしかして原村?」
「あっ、そう、原村! さすが美空! 詳しいじゃん」
原村が星空の綺麗な場所として有名なことは、美空も知っていた。
しかし、一度も訪れたことはなかった。
「星空を見に行くんだから、美空も参加してくれるでしょう? ちなみに男性陣のうち二人が車を出してくれるんだって。つまり交通費はタダよ!」
(交通費がタダ)
そのなんとも魅力的な響きに、美空は心惹かれた。こんなチャンスはめったにない。
「うん、考えてみる」
「返事は来週中に頂戴って萩原さんに言われてるから、それまでに決めてね。あ、ちなみに日程は、来月最初の土日で一泊ね。たしかそこは美空も休みだったよね」
「うん、休みだよ。じゃあ、なるべく早めに返事するね!」
「よろしく! なんかさぁ、最近男漁りみたいな飲み会ばっかり続いてたけど、こういうイベントっぽいのもいいなぁって思っちゃった。結構新鮮じゃない? 学生時代に戻ったみたいでさ」
確かに結衣の言うとおりだ。この歳で男女の集まりとなると、どこか結婚や交際を意識したものばかりになりがちだ。
しかし、星を見に行くことが目的なら、サークル活動のノリで気軽に参加できる気がした。
(行ってみようかな)
美空はふとそう思った。
その後、美空は長野での星の観察会に参加することにした。
長野の美しい星空を観るチャンスを、逃したくなかったからだ。
美空は旅行にカメラを持って行くことにした。初ボーナスで買った一眼レフカメラでは、まだ月しか撮ったことがない。
素晴らしい星空なら、赤道儀がなくてもカメラ一つで撮れると本に書いてあった。
期待に胸を膨らませながら、美空はカメラの手入れを始めた。
そして手入れが終わると、昔買った星空撮影の本をもう一度読み返した。
その日、美空は夜が更けるまで、夢中になってその本を読み続けた。
コメント
23件
さっさと2人で帰った経緯も伝えて、結衣ちゃんもいい感じの彼が見つかって収穫ありだったね❗️ 夏彦さんご提案の星観測🔭はきっと美空ちゃんとお近づきになりたい願望込みでは?? それにしても合コンありありの玲奈パターン😤 厄介なのに目をつけられて三角関係チックだね💦 きっと的外れな女子力高めの出立でくるんだろーなー😮💨コナキャイイノニ😩💧
なんか楽しみですね〜。
趣味が合うもの同士、観測会で二人の距離が接近するのかな〜☆ あ、お邪魔虫玲奈は一人でプラネタリウムにでも行っておいで。 作りものの星と本物の星の違いくらいなら分かるんじゃないの〜