テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
前回のあらすじ
起きたら、おじさんになっていた。
親には警戒され、泥棒だと思われている。
そして洗面所で、自分が女子高生ではないことに気づいた。
私は、自分が自分ではないことに気づいた。
鏡の前で、しばらく動けなかった。
「……これ以上、変な動きをしたら警察に突き出すからな」
お父さんが、掃除用ブラシを構えたまま言う。
私は慌てて振り返った。
「ち、違う……! あの、私……!」
言葉が詰まる。
どう説明すればいいのか、分からない。
自分でも分からないことを、
どうやって信じてもらえばいいのかなんて、もっと分からない。
「母さん! 早く警察を――」
その言葉を聞いた瞬間、体が勝手に動いた。
このままじゃ、捕まる。
そうなったら、全部終わる気がした。
私は、そのまま家を飛び出した。
どれくらい時間が経ったのか、分からない。
気づけば、公園のベンチに座っていた。
空はすっかり暗くなっていて、
星だけがやけに綺麗だった。
「……これから、どうすればいいんだろう」
思わず、声が漏れる。
低くて、知らない声。
そのとき。
足元で、小さな鳴き声がした。
にゃあ……。
見ると、首に鈴をつけた子猫が、
よろよろと歩いていた。
体は細くて、今にも倒れそうだった。
……放っておけない。
私は立ち上がり、コンビニへ向かった。
入口の前で、足が止まる。
コンビニに入るだけなのに、心臓がうるさい。
何を言えばいいんだろう。
どうすればいいんだろう。
少しだけ迷ってから、扉を押した。
猫缶を手に取り、レジへ向かう。
「……これ、お願い」
声がうまく出ない。
店員の顔も見られない。
「300円です」
言われた通りに、財布を開く。
千円札を一枚、置いた。
会計を済ませて店を出る。
そのとき、後ろから小さな声が聞こえた。
「ねえ、今の人……財布、ちょっと可愛くなかった?」
「ギャップってやつじゃない?」
……可愛い。
その言葉に、少しだけ足が止まる。
そんなこと、親にしか言われたことがなかったから。
……少しだけ、嬉しかった。
私は子猫のもとへ戻った。
猫缶を開けると、
子猫は夢中で食べ始めた。
その様子を見ていると、
少しだけ、心が軽くなる。
ふと、思い出す。
サクラちゃんの家で見た、
小さな猫のことを。
「……ももちゃん?」
そう呼びかけると、
子猫は顔を上げて、にゃあと鳴いた。
やっぱり、この子だ。
私は子猫を抱き上げた。
……返さないと。
そう思って、足を動かす。
けれど、家の前で立ち止まった。
どう説明すればいいんだろう。
考えていると、背後から足音が聞こえてきた
「……あの」
声がかかる。
顔を上げると、サクラちゃんが立っていた。
「すみません……うちの前で、何か用ですか?」
警戒したような声。
私は一瞬、言葉を失う。
目の前にいるのに。
ちゃんと見えているのに。
――遠い。
喉の奥が、きゅっと締まる。