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「“信じたいもの”だけ見てると死ぬぞ」
その言葉が、ずっと頭から離れなかった。
特務局本部。
夜。
冬真は自販機の前でスポーツ飲料を見つめていた。
五分くらい。
「……お前、それ買うだけでどんだけ悩むんだよ」
後ろから声。
振り向くと悠臣がいた。
紙コップ片手に、眠そうな顔をしている。
冬真:「いや……別に」
悠臣:「絶対別にじゃねぇ顔」
悠臣は隣に立つ。
「灰崎のこと考えてた?」
冬真は黙った。
図星だった。
悠臣は苦笑する。
「あいつ、人の頭ぐちゃぐちゃにすんの得意だからな」
「……なんなんですか、あいつ」
冬真は小さく言った。
「親友の仇なのに、なんで助けるんだよ」
「さぁ」
悠臣は肩をすくめる。
「俺も全部は知らん」
「でも」
少しだけ真顔になる。
「あいつが“迅を殺した”のは事実だ」
冬真は拳を握った。
迅。
朝霧迅。
一年前に死んだ親友。
明るくて、優しくて、誰からも好かれていた。
特務局の中でも人気者だった。
冬真にとっては、兄貴みたいな存在だった。
「……理由とか、分かってるんですか」
悠臣は答えなかった。
代わりに、紙コップを見ながら言う。
「冬真。お前、“いい奴”って何だと思う?」
冬真:「……は?」
「例えばさ」
悠臣は続ける。
「笑ってて、優しくて、仲間思いで」
「そんな奴が、人を殺してたら?」
冬真の眉が寄る。
「何言って……」
「逆に」
悠臣は冬真を見る。
「人殺しだけど、毎日誰かを助けてる奴は?」
冬真は答えられなかった。
その時。
「おーい!!」
廊下の向こうから声。
湊だった。
湊:「局長が呼んでる」
冬真:「局長?」
湊:「早く来い。機嫌悪ぃんだよ今日」
冬真:「それ絶対行きたくねぇ……」
数分後。
局長室。
ドアを開けた瞬間、冬真は思った。
――ヤクザだ。
ソファに座る男は、完全にヤクザだった。
傷だらけの顔。
鋭い目。
巨大な体。
なのに隊服を着ている。
特務局局長、《獅子堂源蔵》。
国内最強クラスの能力者。
そして超怖い。
「座れガキ共」
「失礼しまーす」
冬真たちが座る。
すると獅子堂は机に一冊の黒いファイルを置いた。
ドサッ。
「……?」
冬真が首を傾げる。
獅子堂は低い声で言った。
「朝霧迅の機密資料だ」
空気が止まる。
湊の顔色が変わった。
「……なんで今さら」
「上から許可が降りた」
獅子堂は煙草に火をつける。
「読め」
冬真は恐る恐るファイルを開いた。
そこには大量の資料。
任務記録。
写真。
監視映像。
そして。
ある文章で、冬真の目が止まる。
《朝霧迅、敵性組織《烏蛇(うだ)》との接触を確認》
冬真の思考が止まる。
「……は?」
ページをめくる。
《機密情報の流出》
《複数回確認》
《内部協力者の可能性大》
「ちょ、待っ……」
さらにめくる。
写真。
迅がいた。
知らない男たちと話している。
笑いながら。
冬真の呼吸が浅くなる。
「嘘、だろ……」
湊がファイルを奪った。
乱暴にページをめくる。
「……違う」
声が震えていた。
「こんなの、偽造だ」
獅子堂は黙ったまま煙を吐く。
湊が怒鳴る。
「迅が裏切るわけねぇだろ!!」
机を叩く。
殺気が漏れる。
だが獅子堂は動じない。
「灰崎蓮司は、一年前に朝霧迅を殺害した」
静かな声だった。
「理由は、“迅が敵だったから”だ」
冬真の頭が真っ白になる。
敵。
迅が?
あり得ない。
だって迅は――
「嘘だ」
冬真は呟いた。
「迅は、俺たちを助けて――」
その瞬間。
獅子堂が冬真を見る。
「お前、“見たい部分”しか見てなかったんじゃねぇのか」
昨日。
蓮司にも同じことを言われた。
信じたいものだけ見てる。
冬真の背筋が寒くなる。
その時だった。
ピピピピピ!!!!!!
警報。
部屋中が赤く染まる。
《災害級反応確認》
《第三区画壊滅》
《死傷者多数》
全員の顔が変わる。
オペレーターの叫び声が響く。
《対象、移動中!!》
《進路予測――》
次の瞬間。
部屋の窓ガラスが、全部割れた。
バリン!!!!!!
暴風。
黒い雨。
そして。
空に、“巨大な目”が浮かんでいた。
冬真の全身が凍る。
デカい。
あり得ないくらい。
街よりデカい。
人々の悲鳴が遠くから聞こえる。
悠臣が顔を青ざめさせた。
「……おいおい」
湊も息を呑む。
「冗談だろ」
獅子堂だけが静かだった。
ただ一言。
「灰崎を呼べ」
冬真が振り返る。
「……え?」
獅子堂は空を睨んだまま言う。
「この国でアレを止められるのは、灰崎蓮司だけだ」