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翌朝、サペは工房の机に紙を並べていた。
白でも黒でもない。雨がやんだあとの空みたいな、淡い青をした厚紙だ。
角は少し丸めてある。触った時に冷たすぎないよう、紙質もわざわざ選んだ。
ンドレスが横からのぞく。
「まだ見習いのくせに、名刺なんか持つのか」
「見習いだから作るんだろ」
「理屈は通ってない」
「おまえにだけは言われたくない」
言い返せるくらいには、空気が元に戻っていた。
昼前、公園の看板の下でエリアが絵筆を洗っているところへ、サペはその紙を持っていった。
「これ」
エリアは受け取って、表を読む。
直し屋
サペ
裏返す。
困りごと、いっしょにほどきます。
しばらく無言だった。
「どう」
サペが聞く。
「……ずるい」
エリアが言う。
「何が」
「こういうの、真正面すぎて、笑えない」
けれど口元はちゃんと笑っていた。
「黒くないんだね」
「うん」
「白でもない」
「白だと、汚れが目立つから」
現実的なのか、照れ隠しなのか、自分でもよく分からない答えだった。
エリアは名刺を光に透かし、小さく息をのむ。
「雨上がりの空だ」
その言い方がうれしくて、サペは何も返せなくなる。
「私のぶんは?」
エリアがふいに言う。
「え」
「看板絵師の名刺。ないの?」
サペは固まった。
用意していなかった顔だ。
エリアは吹き出す。
「その顔、ちょっと面白い」
「作る」
「うん」
「ちゃんと作る」
黒い名刺が人を追い詰めた町で、新しい名刺の話をしている。
それだけで、未来は昨日より少しましだった。
#勧善懲悪
#勧善懲悪