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恵菜を抱きしめながら、純は唐突にキスを交わした事を、急ぎ過ぎたか、と考えていた。
相手が恵菜だからこそ、何よりも大切にしたい女性だからこそ、思う事だ。
これが恵菜でなく、バーなどで誘った行きずりの女だったら、すぐにホテルへ直行し、ベッドに入って即セックスに持ち込んでいただろう。
『女と二人きりになったら、身体を交えるのは当然』と思っていた純の考えを、恵菜が変えてくれた。
不意に、親友の豪が話していた事を思い出す。
部下の奈美と恋人同士になり、ホテルで過ごした時、ただ抱きしめ合ってキスを交わしていた、と、以前飲みに行った時に話してくれた豪。
当時の純は、『女と同じ部屋にいてセックスしないのは、ありえねぇだろ』と、密かに考えていたが。
(今なら、豪の気持ちが分かる。アイツにとって、本橋さんがすごく大事だったから、すぐに抱かなかったんだろう……)
純にとって、恵菜は、誰よりも何よりも大切に想う、唯一の女。
まして彼女は、元夫に不倫された経験がある。
(恵菜を悲しませる事だけは…………絶対にしない。彼女が涙を流してきた分、俺が…………恵菜を笑顔にさせてみせる……!)
純は、彼女に誓うように、なおも腕に力を込めた。
「…………恵菜」
彼の胸に顔を埋めている彼女の顔を見下ろすと、彼女は、おずおずと純に視線を交えてきた。
「純……さん…………名前……」
「あっ…………ああ、呼び捨てにされるの、嫌だったか?」
「…………すごく…………嬉し……い……です……」
恵菜がぎこちなく首を横に数回振った後、純に向けて微笑んできた。
だが、どことなく疲労感を滲ませているのか、彼女の瞳が、彼の腕の中でトロンとさせている。
心身ともに、疲れ切っているのだろう。
「恵菜。さすがに今日は色々あり過ぎただろ? そろそろ寝よう。俺がずっと……君を…………抱きしめているから」
彼女がコクリと頷き、布団の中に入ると、純は愛おしい存在を腕の中に閉じ込める。
どちらからともなく、そっと唇を重ねた後、二人は眠りの深潭へ堕ちていった。