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椅子に座るなり、少女は腕を組んで、しばらく黙ったまま机を見つめていた。やがてため息をひとつ。
「……家で話すと、いつもケンカになるんです。何を言っても親に否定されて。もう、口を開くのも嫌になってきました」
蓮司は机に置かれたノートをぱらぱらとめくりながら、退屈そうに聞いていたが、目だけが真っすぐ少女を捉えていた。
「否定される、か。どんなふうに?」
「たとえば、進路のこと。『そんなの無理に決まってる』って笑われたり。ちょっと意見を言っただけでも『子どものくせに』って……」
少女は声を震わせ、唇を噛む。
「私、何を言っても間違ってるって思われてる気がして……」
蓮司はしばらく黙ってから、わざと軽く肩をすくめた。
「……まあ、親ってやつは万能じゃないからな。たいてい、自分の価値観を押しつけるしかできない。
『子どものため』って言い訳しながら、実際は自分が安心したいだけだったりする」
少女は目を見開いた。
蓮司はペンを回す手を止め、机に軽く置いた。
「だから、お前が間違ってるわけじゃない。むしろ、否定されて苦しいと思う時点で、ちゃんと自分の考えがある証拠だ」
少女の肩がかすかに揺れる。
「……でも、家族なのに、どうして分かり合えないんでしょう」
蓮司は小さく笑った。
「家族だからこそ、だろ。近すぎて、余計にぶつかる。赤の他人なら言わない一言を、平気で投げ合う。それが家族ってやつだ」
「……そんなの、嫌です」
「嫌ならいいさ。嫌だって思えるのは、まだ希望がある証拠だからな。
本当に心が死んでたら、『どうでもいい』で終わる。お前はまだ、“わかってほしい”って願ってるんだろ」
少女は唇を震わせ、うつむいた。
蓮司はゆっくり背もたれに寄りかかり、少し声をやわらげた。
「無理に分かり合わなくていい。だけど、自分の気持ちを持ち続けることはできる。
いつか家を出たとき、『あのとき自分はちゃんと考えてた』って胸を張れるようにな。
家族の言葉は絶対じゃない。お前の未来は、お前のもんだ」
少女はしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「……蓮司くんって、意外と優しいんですね」
「意外と、ね。まあ、優しさなんて言葉でくくるほど大したことじゃない。
ただ……誰に何を否定されても、お前自身まで否定する必要はないってだけの話さ」