椅子に座るなり、彼女は手元のノートを握りしめ、眉を寄せた。
「……私って、普通じゃない気がするんです」
蓮司はゆっくりとペンを回しながら顔を上げた。
「普通、か。そりゃ重たい言葉だな。どうしてそう思ったんだ?」
「クラスのみんなを見てると……笑い方も、話すことも、何もかも私と違う気がして。
私だけ、浮いてるというか……」
声は小さく、でも真剣だった。
蓮司は少し眉をひそめ、にやりと笑った。
「なるほど、浮いてる、か。まあ、よくある悩みだな。
でもな、普通ってのはな……他人の目線で決まるもんじゃない。
クラスの誰かが『あいつ普通だな』と思ったところで、それがお前の本質とは関係ない」
彼女は目を瞬かせ、唇をかすかに噛む。
「……でも、やっぱり、普通に見えたいんです。嫌われたくないし、変だと思われたくない」
蓮司はペンを止め、机に肘をつき、彼女の顔を覗き込むように見た。
「嫌われたくない、か。わかるよ。人間、誰だって認められたいんだ。
ただな、変に普通を意識して自分を抑えたところで、疲れるだけだぞ。
お前はお前でいいんだ。それを『変』と思うのは、他人の勝手な判断だ」
少女はノートを抱きしめるようにして、視線を落とした。
「……でも、普通って……やっぱり、羨ましいんです。みんなと同じで、何も気にせず笑ってるのが」
蓮司は軽く笑った。
「羨ましい、な。確かに、そう見えるかもしれない。でもな、表面だけ見てると、みんな意外と悩んでるもんだ。
誰もが他人の目を気にして、少しずつ自分を押し込めている。
だから、笑ってるやつが本当に幸せだとは限らないんだぞ」
少女は息をつき、少し肩の力を抜いた。
「……そうかもしれないですね」
「それに、お前は自分の感覚を大事にしてる。それ自体、普通じゃないかもしれないけど、だからこそ強い。
他人と同じでいることばかり考えてる奴らより、よっぽど自分を見てる。誇っていい」
少女はわずかに笑みを浮かべ、目に少し光が戻った。
「……ありがとう。なんだか、少し楽になった気がします」
蓮司は軽く肩をすくめ、にやりと笑った。
「意外と優しい言葉で締めるのも悪くないな。
普通なんて幻想だ。大事なのは、自分が自分でいること。それが一番疲れないし、意外とカッコいいんだぞ」
少女はノートを閉じ、椅子から立ち上がった。
「……やってみます、自分らしく」
蓮司はペンをくるくる回しながら、静かに頷いた。
「いい心意気だ。次は少し、笑い方も冒険してみろよ。
普通とか関係なく、笑える奴が最強だからな」