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[3916年12月4日/732号]
それは、私が任務に行く前の訓練の事だった。力持ちで有名な512号の所で実力を見てどう戦うかを脳内シュミレーションするため訓練所へ来た。
その時499号と笑いながら512号は訓練をしているようだった。いつも通り元気な子って感じが印象的だった。今回635号さんも同行するみたい…。
「あ、あれ732号じゃない?新人だ〜。」
「ほんとだ。」
499号が私に気づいたらしく512号もわたしの方をじっと見始めた。あわあわと焦ってしまう。実はシュミュレーションとか言ってるけどただ筋トレしてる姿を見て筋肉がどう動いているか確認して人体についてじっくり学んでるだけなんですよね…。
「なにそれ?」
512号が紙に目をやる。今ではすっかり珍しくなった紙に絵を描く文化だ。うちの母はよくやっていたため、紙を知らないなんてありえないと思った。
「紙です。これでなにか書いたりして…」
「ふーん。ちょっと見せて!!」
512号は499号のやめとけーという忠告も無視して私の自由帳に顔を覗かせる。そのとき、見られると感じ、絵を見られる前に自由帳を閉じた。
「結構上手いのになんで隠すんだよー。」
「ひゃぁぁい!!見んな変態!!!」
「絵を見ただけでそんなに?!」
512号はこの時、表情も豊かで普通の子らしく普通に笑っていた。気力のあるような、活力のあるような元気のある顔だった。
私も、この時はただの普通の女の子らしい子で、前髪を顔で隠すほど、根暗陰キャだった。
「あ、ちょっと俺ファーストに呼び出された。行ってくるわー。」
499号が急に訓練所から出て行ってしまった。512号は私が座っているベンチの隣にペタンと座り微笑む。優しい顔に心がほわほわする。
「732号って絵描くの好きなの初めて知った。ねね、せっかくだから描いてよ。」
「…期待通りには行きませんけど…、まぁ…、それでもいいなら…。」
ほんと?!と確認を取り嬉しそうにに512号は待ってくれた。だから何となくで512号を描いてみた。たいして時間はかけないようささっと描いた。
「お!!すげぇ!!将来は画家?」
「…なれると思ってない。」
「えー?!なんで?!」
「今の時代人の絵に価値があるとは思えないから。それに、AIでみんな満足してるよ。」
512号はぽかんとした顔をした。疑問を持つているようだけれど、大した画力だってないし、この子が大袈裟すぎるだけ。
「実際は画家どころか、絵師になる才能だってないんですよ?!」
「そうかな。ていうかその才能とかって絶対必要なものじゃないだろ?俺は好きだけどな〜。」
絵をベタ褒めしてくれる変な人だった。たいして価値もないような絵を評価してくれる人なんて居ないから、なんだか少し嬉しかった。
#恋愛
ばたっちゅ
4,526
215
#BL
NGS_ヘビーなしっぽ
204
こんな趣味、最初からなかった方が良かったなんて何度思った事か。だから、少し複雑でもあった。
「あ、そうだ。あだ名制度追加されたの知ってる?」
「あだ名?」
あだ名は知ってるけど、そんなの追加されちゃっていいのかな。ていうかあだ名つけるようなセンスなんてないのに…。
「俺つけてみてよ。俺も732号のあだ名つけるから。交換!」
わかったとうなづいてしまった。無邪気にそんなこと言われてしまったら断ることが出来ない…。
この人の印象は明るくて…、笑顔がなんか綺麗?というか、作ってない感じの笑顔というか。それが素敵だと思うんだけどどう表現すれば…。
しばらく経って512号は、思いついたのかニヤニヤしながら732号を見つめる。732号もよく考えたのか思いついてか紙にこっそり書いていた。
「732号のあだ名は、”フェノール”とか?」
「フェノール?」
「ブチルフェノールが由来。工業とかでよく使うやつかな。ペンのインクとか。」
ペンのインク…。絶対ペンのインクが決定打だろうなー。私=絵=ペンって紐ずけてそう…。
「…あなたは、512号のあだ名は”リベル”ってどうかな。かっこいいと思って。」
「凄いな!!ネーミングセンスあるだろ!!!」
目をキラキラさせて嬉しそうに見つめてくる。そんなに見つめられても恥ずかしいよ。名前の由来聞きたいかな…この子。
「えと、”リベル”ってのは、ラテン語で”自由”って言うらしいよ。」
「凄いなぁ…。フェノールって結構学あるんだな。」
リベルはあだ名をつけられて嬉しいのかにこにことしていた。なんだか微笑ましくて私もうっかりニヤついてしまった。
その笑顔は穢れない笑顔で、誰かを嬉しくさせるような素敵な笑顔だった。
[3916年12月9日/512号]
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!!」
目の前は635号と499号の死体。目の前の光景。どちらのコアも破壊されていた。特に、635号の死体にしがみついて子供のように泣いていた。
『任務完了、お疲れ。』
目の前に転がる死体を見て、簡単に動けるはずがないだろう。逃げたい、逃げ出したい。嫌だ…、この先俺はこんな目に何度も遭うことになる。
そんなの嫌だ…。
「フェノ───」
「うるさい黙って!!私たちは────!!!」
「それはっ!!わかってる…。 」
でもお願いだから、君自身は無くさないでよ。なんて言葉で言えるはずもなかった。口がぐっとしまって言いたい言葉が声に出てこない。
フェノールはずっと地面に座って泣いていた。誰かと仲良くすることで生まれる心。友だちだと一度思ってしまえばその呪いに苛まれる。
ある意味、友達とは一種の呪いなのかもしれない。一度無くなれば頭に離れることはない。
「私は…、これ以上友だちなんて作らない…っ!!いらないっ!!」
フェノールが、そうやって消えてしまう。フェノールが誰かに嫌われようとしている。僕はフェノールの手を握った。
「じゃあ…僕もこれ以上作らない…。いらないよ…。」
フェノールを一人にさせることなんてできないよ…。僕だって、誰かと仲良くすることも、愛想良く振る舞うことも、もう疲れた…。
『どちらか片方がいなければ、どちらかご孤独心で死んでしまいそうになる。』
『お互いに、そうやって脅していた。だから、どちらか片方を死なせることは僕らの死を意味していた。その絶望も全部、君には分からないだろう。』
石を投げ続けられて、みんなから後ろ指を指され、虐げられていた君だって、両親を殺されて軍に売られた僕だって、大人が大っ嫌いだ。
そんなことで、僕らは気があった。そうやって、死にたくならないようにフェノールに縋ってる。自分の命よりも、一番大事な事があるから。
『だから僕は君がどんなことをしても受け入れられるよ…。』
『もっと愛されたかった。普通を知ってるから今がもっと苦しい。』
『誰からも嫌われようとする君を見るのがなにより僕は苦しかったよ。』
『本当は、嫌われることが怖いくせに。』
タカミが僕に槍を振り下ろす。
「やめてっ!!!」
フェノールの悲鳴じみた声が聞こえた。反射で目をつぶる。頭頬に生暖かい液体が滴る。
リベルは目を見開いた。フェノールが槍の攻撃を引き受けタカミの首に掴みかかっている。タカミはそんな状況でもにやけっツラを露わにする。
動くことができないから何も出来ない。フェノールはリベルを庇ったせいで胸下あたりを貫通し、血がぽたぽたと落ちる。
「こちら9号でぇーす!」
そんなくぐもった声が聞こえたあと壁を突き破る音が聞こえた。さっきまで傷一つ無いコンクリートが壊れて9号が入ってきた。
「ありゃ、私と一番相性悪いやつ来ちゃった。最悪〜。んじゃ、逃げるからそゆことで〜。」
「わぁぁー!ひきょーものぉー!」
フェノールの腕に槍を刺し力が抜けた途端蹴り倒し背を向けた。
「あんたらは私たちが死んでも、報われることがない。なーんて!救えない話だよね〜。」
そう言い残し、タカミはその場から立ち去った。
[3918年5月11日/3号]
あれ、僕は何をしてたんだっけ。身体が痛い。瞼を開くと目の前に2号がいた。僕に覆いかぶさっていたのだ。こんなことでは死なないのはわかってる。
「2号っ?!どうして庇ったりなんかした…!!」
なんて、僕は怒ってしまった。2号はただ微笑んでただ僕のことをじっと見ていた。2号の背中には先程崩れた氷が瓦礫のように2号の体を押しつぶす。
普通なら、圧死してしまう。2号の腕がプルプルと震えている。でも、運が良かったのか人間がギリギリ耐えれるような重さしかのしかかっていない。
けれど、それも長く続く訳じゃない。どうせここで瓦礫で押し潰されても、死ぬ訳じゃない。
「どうして…、自分のことを叩いた相手を守るんだ…!!」
「どうでもいい!!そんなことどうでもいいっ!!」
2号はまた怒鳴った。恐怖で身体が震え上がる。けど、わからないんだ…。2号がどうして僕なんか守る義理があるなんて。
「僕は君と仲良くする権利も…!!君と喋る権利も…!!………守られる権利も……ない…。」
「後輩のくせしていっちょ前なこと言ってんじゃないよ!!!私はずっと言ってるの!!死ぬなって!!死ぬってのはコアが破壊されることじゃない!!私たちが人間として死ぬってことなのわかる!!?」
2号は声を張りすぎたせいが、息を切らした。その間も氷の瓦礫は溶けることなく体を重くした。目の下に生暖かい液体が落ちる。
身体が圧迫されたことによって内臓が傷ついている。どうすればいい。このまま氷が溶けるのを待つか、助けを待つか。
「私は、ただ好きなように生きる。3号に指図されても私は多分こうした。合理的なんてどうでもいい。」
「だからってそんなことするの…?!死にたいの?!」
「死にたいわけないでしょ…!!!」
でも、こんなことしてたらいつか誰かを庇って死ぬのは2号だ。どうにかして僕が何とか───
「一人でどうにか出来るわけない…じゃん…!!死にたいのは……そっちでしょ…!!」
ゲホゲホとまた2号の口から血が出る。その光景に僕はまた胸の奥がヒヤリとした。こんなの見たくない。でも、五感を無くす方法が今は…。
ハッとして手首に隠している小さなナイフを手で掴む。これで聴力と視界だけでも無くせばこんな思いなんかしなくていい。こんな思いなんて…
「馬鹿なことしないで!!」
2号が口で僕の持っていたナイフを取った。手の届かない方へ吐き捨てられる。そのせいで口を傷つけた。また僕のせいで傷ついたんだ。
「君には痛覚がある。…けど私は…違う…!!」
「2号だってちゃんと…痛い時は痛い…!」
こんなに苦しそうな顔をしてる癖に、痛くないなんて僕だってわかる。ただ、僕はあまりの重さから唸り声を上げる2号を見つめていた。
またゲホゲホと2号は咳き込んだ。口からはさっきよりも多い血が僕の首あたりにかかる。血が首の後ろ辺りまで滴り落ちる。
「ご…、ごめん。血…血が…ゲホッ……ゲホッ……。」
吐血による気持ち悪さと息苦しさからか、2号の右目には涙が溜まっている。
「2号は、どうして死にたくないの…?」
なぜか僕は変なことを聞いてしまった。こんな状況で僕は2号に何を言っているのか。2号は動揺もしていない様子だった。
「私と関わった人を忘れたくない…から…ゲホッッ…無くしたくない…君たちを…忘れたくない…から…。」
2号の腕がかくんと折れ地面に腕をつく。けれどまた腕を伸ばして耐えようとしている。プルプルと震える腕に力を入れ、取り繕うように笑った。
「…そんなの…あんまりじゃないか……。」
「3…号…なにかいった…?」
2号の抑えている氷の瓦礫に手を伸ばした。何とか押し返そうとするが、あまりの重さから今にも手首を痛めそうだ。
「…2号のバカって言ったんだよばーかッ!!!」
「バカってなんだそっちこそばかだばーか!!」
誤魔化そうとしたらなにか変な言い合いになったけど、さっきの空気よりは良い。どんどん氷の瓦礫は軽くなり、少しずつ上へと押し上げていった。
ついに瓦礫がバッと押し返すことができ、陽の光が射し込んだ。腕はかなりきついけど、2号の背中の方がかなり負担がかかったはず。
「2号、背中大丈───」
「あぁ…生きてたんだ…。」
パモラがこちらをじって見ていた。ただボロボロになりながらこちらをじっと見つめるだけだった。なにも言うことがないのだろうか。
2号をじっと見つめた後にパモラの方へと歩き出す。もういいのかと止める2号に大丈夫と伝えると、しゃがんでパモラの顔を見つめる。
先程の崩落のせいで剣が紛失した。残っていたのは、近くに落ちていた小さなナイフだけだった。そのナイフをパモラの首元に向ける。
「…いつだって、この世界は寒くて苦しいけど、冷たいことばっかりだけど…、陽の光は…、案外悪くないよ…。」
「そう…だね…。…僕さ…、母さんにも父さんにも…愛されてなかったんだ…僕…捨てられたの…。」
泣きながら身のうちを語るパモラに対し、僕は無意識に首から手を離す。パモラの境遇を、自分と重ねていたのかもしれない。
パモラを殺すことが、自分を殺すようで怖かったのかもしれない。でも、もう…殺さなきゃなんだ。
「…母さん帰ってこなかった。もう父さんも帰ってこないじゃん…、友だちも…ヘカテたちも帰ってこないじゃん…もう全部…なくなっちゃったじゃん…!」
「……そうだね。…うん…。」
「もう…ヘカテたちのもとへ行きたいよ…。」
「……そっか。」
泣きじゃくる彼を、今度こそ殺そうと手に持っていたナイフで首を切った。泣きじゃくる声も静止し、パモラの身体が地面にぶつかる。
喉元を切っただけで、こうもあっさりと息絶えてしまったのだ。簡単に死んでしまった。
「あっ…、あああああのっ…。」
「……9号?だっけ、どうしてこんな所に。」
「ひぃっ!!顰めっ面っ…!!!に、にににごうさんの状態確認どどどど言いますかっかかかか…っ。」
テンパりすぎてて困ってるだけだと伝えたけれどイヤァァァ!と叫んで声が重なってしまう。若干話通じないタイプだ…、なんでこんなしんどい時に…。
「…2号のこと頼んだ。僕はもう少し…、ここにいるよ…。」
「………わかりました。」
コメント
1件
いやもう…読んでて胸がぎゅうぎゅうしたよ…😭💔 リベルとフェノールのあだ名交換のシーン、あんなに温かくて穏やかだったのに、その後の展開が辛すぎる…。友達を作ることを「呪い」って言うフェノールの気持ち、痛いほどわかるよ。でも、それでもリベルが「じゃあ僕も作らない」って手を握るのが、もう…二人の絆が深すぎて泣ける。 そして3号と2号の瓦礫のシーン!「死にたいわけないでしょ!」って叫ぶ2号の強さと、それでも口から血を吐きながら「忘れたくないから」って言う優しさにやられた…。最後のパモラとの対峙も、自分自身と向き合うことの重さが伝わってきて、ただただ言葉にならなかったよ。 天脳音月さん、本当に素敵な物語をありがとう…!次の展開が待ちきれないよ🌸