そして詩帆の初授業は無事に終わった。
初日の前半は自己紹介で終わり、後半は今後の授業の進め方について皆で話し合った。
話し合いの結果、自分がやりたいことを一つピックアップしそれに関する課題を自分に課す。
そして学期の最後に自己評価をし成果を皆の前で発表するという事に決まった。
それ以外に、月に一回はクラス全員で活動する日を設ける。
その時は外でのスケッチや写真撮影、美術館見学、講師を招いて特別授業を企画する。
想像しただけでも楽しそうな授業だ。
生徒達は今までとは違う授業形態に大はしゃぎだった。
彼らの生き生きとした表情を見ていると詩帆も俄然やる気が出てきた。
そして涼平の知人の山岳写真家に講師をお願いしてみようと思った。
きっと第一線で活躍しているプロとの触れ合いは、生徒達にとって良い刺激になるだろう。
そこで詩帆は来週の授業まで生徒達に課題を出した。
自分がこれからやる事について詳細に調べてくる事。
そして実際に自分がどう進めて行くか計画を立てるようにと指示した。
生徒達はこの課題を嫌がるかもしれないと思っていたが、好きな事に関してなので誰も文句は言わなかった。
むしろ調べる事が楽しみな様子だ。
生徒自らが動く事によってきっと彼らの自信に繋がるはず……詩帆はそう思っていた。
詩帆は授業を終えると職員室に戻った。
すると早速同僚の教師たちからどうだったかと聞かれたので、今日の授業内容を説明した。
教員達は、自分のやりたい事を自分で選択し突き詰めて取り組ませる事は非常にいいのではと言ってくれた。
皆が詩帆の授業内容に理解を示してくれた。
途中から校長も加わり、パソコンやカメラを用意出来ない生徒にはスクールから貸し出せるようにするとまで言ってくれたので、詩帆は感激する。
その後、詩帆は午後からの仕事があるのでスクールを後にした。
昼過ぎに出勤すると、早速店長が詩帆に話しかけてきた。
「江藤さん、初日の授業はいかがでしたか?」
詩帆はまさか店長にそう聞かれるとは思っていなかったので驚く。
「はい、なんとか無事に終わりました。皆いい子達ばかりでとても楽しい授業が出来ました」
詩帆が報告すると、店長は笑顔で頷く。
「それは良かったですねー。いや、実はね、僕の甥っ子が昔学校でいじめにあいましてね、不登校の時期があったんですよ。その時思い切ってフリースクールへ転校したのですがその学校がとても良い学校でねー。そこでは友達も出来て楽しく通っていたんです。で、今は大学へ普通に通っています」
店長は嬉しそうに笑った。
「そうでしたか! 今は大学生活を楽しんでいらっしゃるようで本当に良かったです」
その時詩帆は、店長がなぜシフト変更に理解を示してくれたのかがわかった。
店長はフリースクールの重要性を認識していたので詩帆の事を応援してくれたのだろう。
皆口には出さないが、どの人も様々な事情を抱えているのだなと思った。
そしてそれを乗り越えた人こそ本当に強くて優しい人間になるのではないか? そんな風に思った。
詩帆は生徒達からパワーをもらい、そして店長からも優しさを貰い、その日は閉店まで元気に働いた。
閉店作業を終えてから、詩帆は夜の九時過ぎにカフェを出た。
裏口を出てからすぐに自転車駐輪場へ行くと、そこに涼平がいたのでびっくりする。
「待っていてくれたの?」
「うん。俺も残業で今帰りなんだ。詩帆先生の初日はどうだったかなーと思って」
「うん。なんかすごく楽しかった。みんないい子ばっかりなの」
詩帆は涼平と並んで自転車を押しながら、その日あった事を詳しく話し始めた。
詩帆が話す生徒達の様子を聞いて、涼平はすごくいい子達だねと言ってくれた。
そして詩帆が計画した授業形態も、生徒達のやる気を引き出し、かつ時代に沿ったいい授業だと褒めてくれた。
写真に興味がある子がいたので、涼平の友人の写真家に講師をお願いしるかもしれないと詩帆が言うと、涼平は微笑んでいつでも紹介するよと言ってくれた。
ちょうどその時アパートの前に着いた。
「送ってくれてありがとう」
詩帆は笑顔で涼平を見上げる。
すると涼平は左手で自転車を支えながら右手で軽く詩帆を抱き寄せると、詩帆のおでこにキスをした。
「今日はよく頑張ったね。疲れただろうからゆっくりお休み」
涼平は爽やかな笑顔で言うと、手を振りながらマンションへ戻って行った。
詩帆は涼平の後ろ姿を見えなくなるまで見送っていた。
コメント
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詩帆ちゃん、フリースクールの初授業が上手くいって 良かったですね🥰 生徒達にすっかり受け入れられ、学校やバイト先も そして 愛する涼平さんも皆 応援してくれていて....✨ 今まで無かったような授業も開講出来そうで、楽しみですね~🎶
詩帆ちゃんのフリースクールの授業がみんなに受け入れられて本当に良かった🥰👍 それに若くて美大を出てる詩帆ちゃんだから授業のアイディアも豊富で生徒のみんなが喜ぶのも無理はないね🤗🎶 学校の先生方もカフェの店長もみんな詩帆ちゃんを支持してくれるのが良き💓 もちろん涼平さんが詩帆ちゃんを愛💓で包み込んでくれるのも自信に繋がってるよね、詩帆ちゃん🤭💏