翌朝、涼平は事務所で加納と話していた。
「詩帆ちゃんはフリースクールでの初日無事に終わったのか?」
「はい。みんないい子達ばかりで楽しく授業が出来たと言っていました」
「そうか。それは良かったな。で、あっちの方はどうした?」
「あっち?」
「ほら、下田に行く件だよ」
加納は痺れを切らしたように涼平に聞いた。
「ああ、あれは行く事は決まったんですがなかなかお互いの休みが合わなくて。詩帆も土日の両方は休み辛いみたいで」
涼平は残念そうに言う。
「オマエ有給取れ! 金曜日に一日休みを取って金土で行って来い」
「え? いいんですか? 今忙しいのに」
「商業施設の方はだいぶ進んでいるから一日くらいどうってことないだろう? それにお前は今年に入ってまだあまり有給を取っていないんじゃないか? だから金曜に一日休んで行ってこい」
加納はニッコリ笑って言った。
「まじっすか? それは有難い! あざーっす!」
涼平が喜んでいるところへ佐野が言った。
「加納さんー、俺も有給取りたいっす」
「お前は取り過ぎなんだよ! 有給、大して残ってないだろう?」
「まだ少しありますよー! 俺も休んで綾と旅行に行きたいっす」
佐野がさらっと言ったのを聞き、涼平と加納が同時に叫んだ。
「「えーーーっ?」」
そして加納が佐野を問い詰めた。
「オマエ、パーティーで一緒だったあの子といつの間に?」
「エヘヘッ」
佐野は頭を掻きながら照れ笑いをした。
それを見た涼平と加納は、顔を見合わせてやれやれといった顔をした。
その日涼平は仕事を定時で終え、一旦家に帰ってから車で出掛けた。
久しぶりに行きつけのアウトドアショップへ行ってみる。
キャンプの道具はほとんど揃っていたが、昔使っていた寝袋は引っ越しと共に処分してしまったのでもうない。
だから今日は新たな寝袋を二つ新調しようと思っていた。もちろんそのうちの一つは詩帆の分だ。
おそらくキャンプに行くのは十一月中旬頃になるだろう。
下田は南伊豆なのでまだそれほど寒くはないが朝晩は冷えるかもしれない。
だから耐寒性のあるしっかりした物を選ぼうと思っていた。
涼平はショップのシュラフコーナーを見ていると、二つの寝袋が一つに連結するタイプの物を見つけた。
これなら、詩帆が寒がった時に連結して一緒に入れば暖かい。
そこで涼平はハッとした。
(いや、それはさすがにまずいだろう)
涼平がそう思った時、頭の中に佐野の言葉が蘇る。
『テントの中でのエッチは燃えますよー』
涼平は慌てて頭をブンブンと左右に振り、
(それは絶対ダメだ! 俺は急がないぞ! 絶対に焦らない!)
心の中でそう呟いていると、店員が傍に来て言った。
「そちらはこの秋の新作で大人気のお品です。耐寒性は抜群でマイナス25度までOKですし連結すれば二人で入れるのでカップルの方達に大人気です。在庫が今これしかないので次はいつ入荷するか未定なんですよー。もしこれから彼女とキャンプに行かれるようでしたら、寒がりの彼女が喜ぶこと間違いなしです!」
店員があまりにも自信あり気に言ったので、その勢いに押された涼平はつい、
「これ、ください!」
と言ってしまった。
すると店員は満面の笑みで、
「お買い上げありがとうございまーす! レジでお預かりしておきますので、ごゆっくりどうぞー!」
と言っていそいそとレジへ行ってしまった。
なんだか店員の上手いセールスにのせられた気がしないでもないが、そのシュラフはアウトドア界の老舗ブランドの品だったので品質は間違いないはずだ。
(俺は決して下心で買うわけじゃないからな!)
そう言い訳をしつつ若干後ろめたさを感じながら、涼平は次に買う物のコーナーへ移動した。
そこで詩帆が使うマグカップを選ぶ。
結局自分と同じブランドのチタン製のカップを買う事にした。
アウトドアショップでの買い物を終えた涼平は、携帯ガスストーブ用のカセットボンベが切れている事に気づく。
それを買いにホームセンターにも寄る事にした。
ストーブはまだ必要ないかもしれないが、念の為に車に積んで行こうと思っていた。
ホームセンター内を歩いていると携帯が鳴った。
詩帆からのメッセージだった。
【急なのですが、8日の金曜日と9日の土曜日にお休みが貰えました。美佐子さんがシフトを代わってくれたの。だからその日だったら行けそうです】
涼平は加納と話した後、詩帆に金、土と続けて休める日があったら教えてと伝えていた。
そうしたら早速休みが取れたようだ。
【美佐子さんに感謝だね! じゃあ、8日、9日で行きましょう。8日の出発時間等についてはまた連絡します】
そう返信すると思わずガッツポーズを。
その時近くにいた買い物客に変な目で見られたので、涼平は慌ててレジへ行き会計を済ませた。
駐車場へ戻り運転席に座った涼平は、フロントガラスから暗い夜空を見上げた。
6年、いや7年ぶりのキャンプだ。最後にキャンプに行ったのは、たしか菜々子やサーフィン仲間達と一緒だった。
そして今度は詩帆と二人きりでのキャンプだ。
詩帆と一晩中一緒にいられるのだと思うと胸が高鳴る。
涼平は逸る気持ちを押さえながら車のエンジンをかけた。
早速旅の予定を立てなければ。
そう思った涼平は、鼻歌を歌いながら軽快にアクセルを踏み込んだ。
コメント
3件
私も毎年GWと9月か10月の連休で下田にキャンプに行くのでなんか嬉しいー 下田ブルーはほんとに綺麗で感動する!
一緒のお休みが取れ、キャンプに行けることになった二人....✨ヨカッタ-♥️ 🌳⛺️🚙🌊 嬉しくて 売り場で思わずガッツポーズしちゃったり、鼻歌を歌いながら運転しちゃう涼平さんが可愛い~♥️🤭 連結可能な寝袋、大活躍すると良いね👩❤️👨♥️♥️♥️🤭ウフフ....
自分に言い訳しながら連結できるシェルフを買っちゃう涼平さんがかわいい💕気持ちはわかるけどね〜😊🤣💓 菜々子さんと仲間達とのキャンプ🏕️以来の詩帆ちゃんとのツーショット🏕️ 詩帆ちゃんも日程の調整がついて、涼平さんは有給休暇を許可してくれた加納さんに感謝だね🥲🙏ステキな下田のキャンプにウキウキワクワクドキドキ😋👍💏🩷