車は順調に高速を飛ばしやがてインターを降りた。
そして一般道へ出ると北へ向かって走り始める。
この辺りは長野よりも雪が少ない。岳大の叔父が経営しているホテルは標高の高い場所にあるのでもしかしたらもう少し雪が多いかもしれないがそれでも長野よりは少ないだろう。
ちょうどお昼時になったので岳大はどこかでお昼を食べようと言った。
街中の国道から県道へ移ると辺りはのどかな景色へと変わった。窓から見える森や草原に心癒される。
すれ違う車もほとんどなく道は空いていた。
この辺りは有名な観光地からは少し逸れているのでとても静かだ。季節も雪が残りまだまだ寒いシーズンなので観光客もまばらだ。
岳大の叔父が経営するホテルは山の上の自然公園に隣接しているようだ。市街地からも離れているので夜は光害の影響を受けないので素晴らしい星空が見えるらしい。
(信濃大町の星空とどっちが綺麗なのかな?)
優羽がそう思っていると道沿いにレストランの看板が見えて来た。
「あそこで食べようか?」
岳大の言葉に優羽が頷くと車は看板の横の小道へと右折した。
100メートルほど進むとログハウス風の可愛らしい店が見えた。看板には『森の妖精』という店名が書かれてある。
名前の通り店は森に囲まれていた。
駐車場に車が停まると二人は車を降りて店へ向かった。
店内に入った途端木の香りがした。
木製のテーブルには青と白のギンガムチェックのクロスが掛けられ店内のインテリアはまるでアメリカ開拓時代のような雰囲気だった。
「素敵!」
思わず優羽が感動する。
「なんか懐かしい雰囲気がするね。僕はアメリカ人じゃないけど」
岳大の言葉に優羽は思わずクスッと笑う。
窓際の席へ案内されたので二人は向かい合って座った。木枠の窓の外には森が広がっていた。
「山神山荘の裏の森と似ているわ」
「そうだね。植生が似ているんだろうな」
そこで二人はメニューを開いて何を頼もうか考え始めた。
岳大は即決でハンバーグセット、優羽は少し悩んだ後オムライスセットに決めた。
セットには飲み物とチーズケーキがついてくる。
「チーズケーキはしばらく食べていないから嬉しい」
優羽が嬉しそうなのを見て岳大が言った。
「優羽は僕と出掛けるといつもケーキで喜んでいるよね」
その時岳大が初めて優羽の事を呼び捨てにしたので優羽はドキッとする。
優羽は照れ臭さを誤魔化すために慌てて岳大に質問をした。
「佐伯さんは叔父様のホテルには何度も来た事があるのですか?」
そこで岳大は眉をピクッと動かすと優羽に聞いた。
「まだ『佐伯さん』って呼ぶのかな?」
「あっ、えっと佐伯さんじゃダメですか?」
「うん、ダメだなぁ」
岳大がニヤッと笑って答える。すると優羽は困ったように聞いた。
「じゃあ岳大…….さん?」
「うーんなんか硬いな」
「いきなり呼び捨てなんて無理ですっ」
優羽が必死な顔で言ったので岳大はクックッと笑いながら言った。
「じゃあそれでいいよ」
それから岳大は先ほどの優羽の質問に答えた。
「叔父のホテルには2~3年に一度くらいは来てるかなぁ? 子供の頃は毎年来ておやじと一緒にこの辺りの山を登ったんだ」
「へぇ、そうなんですね。まさに登山の原点ですね」
「うん、そうかもしれないね」
そこへ料理が運ばれてきた。出来立ての熱々で美味しそうだ。
優羽はオムライスを見て呟く。
「美味しそうー」
「優羽のオムライスも凄く美味しいよ。井上君なんかすっかりファンになっちゃってるからね」
「ありがとうございます」
優羽は岳大が料理を褒めてくれたので嬉しかった。
それから二人は食事を始めた。見た目通りに味も絶品だった。
ペロリと料理を平らげた後、食後のチーズケーキとコーヒーが運ばれてきたので二人はデザートを食べ始める。
嬉しそうにチーズケーキを食べる優羽を見ながら岳大はあの代々木上原での夜を思い出していた。
あの夜深夜のカフェで優羽はアップルパイを食べていた。
あの時と同じ笑顔で今はチーズケーキを食べている。その笑顔はとてもあどけなく無邪気だった。
彼女は一人の女性として恋をし子供を産んだ。それなのになぜ初心で純真無垢な雰囲気を漂わせているのだろうか? 岳大はずっとその事が不思議で仕方がなかった。
岳大が過去に付き合った女性の中に優羽のような女性は一人もいなかった。
だからこそ岳大は優羽に夢中になり彼女をを独り占めにしたくなるのだ。
優羽の内面に潜む女としての魅力は本人が無自覚のままいつの間にか溢れ出している。そして気付くといい歳をした大人の男がそれに翻弄されているのだ。まさに魔性の魅力だ。そしてその魔性にやられてしまった男は岳大だけでなくあの西村も同じだった。
実は岳大はずっと思っていた事がある。それは西村がまだ優羽の事を愛しているのではないかという事だ。
だから西村は興信所を使って優羽の事を調べたり岳大に色々と仕掛けて来るのではないだろうか?
おそらく岳大のその読みは当たっているのだろう。
岳大は目の前で微笑む優羽を穏やかに見つめながらそんな風に思っていた。
コメント
2件
やっと名前呼びできた〜🤭 岳大さんビンゴです。西村は忘れられないんです…どうにもできない、ならないのにね…。 ささ、今はそれは横に置いといて、一泊旅行を楽しもう🤍🩵
魔性の魅力を持つ天使の優羽ちゃん😇 岳大さんも西村もその魅力のトリコ😋💗 でも相思相愛な岳大さんと優羽ちゃんの心は一つだし、どんな時も相手を思いやるのがとてもいいわぁ〜💘💘 ようやくお互いも名前呼びできたし🫶叔父さんにご挨拶して楽しい旅行を満喫して下さいね🥹👍🌷💓