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修道女のエルネスタいわく、街はダンジョンを抜けた先にあるそうだ。
レンタロウはエルネスタと一緒にダンジョンを探索していた。
見るからに怪しいキノコなどを拾いつつ奥へと進む。
やがて、岩だらけの広い空間が顔を出した。
中はすこしひんやりしている。
寒さに耐えかねたエルネスタが、持参したケバケバのセーターを着こむ。
セーターは、異世界(ニッポン)から飛んできたものらしい。
「あれはなんですの?」
道中に拾った毒々しいキノコを齧りながら、エルネスタが指をさした。
3体の何かが、レンタロウらの様子を窺っている。
尖った耳に鷲鼻。
ボロボロの腰巻を装着した濃い緑色の体。
ゴブリンだ。
30メートルくらい離れているが、視力が良いレンタロウには、ハッキリと見えている。
一方のエルネスタは、クシャミ寸前のような顔をして目を細めていた。
顔面にシワを寄せ、おじいちゃんのタマ袋について、おばあちゃんの知恵袋に質問する、ウメ干しを食べたパグのような表情__要するに、よくわからない面相だ。
キレイ系の顔立ちなのに非常に勿体ないと、レンタロウは思う。
ホワイトゴブリン族のボブ子が言っていた『緑のゴブリン(ホワイトゴブリンの下位種)』らしい。
「キター! 異世界ふしぎ発見!」
ようやくモンスターらしきヤツに遭遇した。
これぞ異世界生活なんだと、レンタロウは実感する。
「喜んでいる場合ではなくてよ? あいつら、私たちを通さない気ですわ!」
またバトルか……。
向こう側に見える出口らしき穴の前に立ちふさがるゴブリンども。
一番背の高いゴブリンがバールのようなものを投げてきた。
どいつもこいつも、とりあえず投げやがって。
バールっぽい武器の投擲が攻撃開始の合図だったようだ。
大小さまざまな3匹のゴブリンが、レンタロウに向けて小石をぶん投げてくる。
プチプチ当たる石は小さいが、地味に痛い。
よく見ると石ではない。BB弾だ。
「プラスチック製じゃねえか! 環境にやさしいBB弾に変更しろ。土に還るヤツにしろ!」
「レンタロウは何言っているのかしら? さっさとやっつけましょう」
レンタロウは飛んできたBB弾を1発だけ拾う。
少し離れたゴブリンに投げ返してみる。
ゴブリンらも同じことをしてきた。
「エルネスタ、それを回収して投げ返せ! 全力で返品しろ!」
「了解ですわっ!」
気が付けばゴブリンたちとの距離は、10メートルにまで縮んでいた。
モノをぶん投げても届かない距離ではない。
レンタロウは、地面に転がるBB弾を30発ほど回収し、まとめてゴブリンに投げ返す。
数発だったBB弾が、数千発にまで膨れ上がった。
右へ左へ飛び交う大量のBB弾。
レンタロウとエルネスタは、むきになって投げ返す。
ゴブリンも当然に応戦する。
なんだか、ターン制の豆まき状態になっている。
威力は低いけど数が多い。
首から上に当たると結構イタイ……。
レンタロウは、サバゲー用のゴーグルを装着して再び参戦する。
飛んできたBB弾を回収しては投げ返すという行為を、レンタロウとエルネスタは、30分ほど繰り返した。
「ちょっとタイム!」
レンタロウはゴブリンに向かって手をTの字にしてみせる。
3匹のゴブリンはコソコソと相談すると、真ん中にいたゴブリンが白い歯を見せながら親指を立てた。
なんだ。いいやつじゃないか。
アホっぽいけど。
「おもしろいけどキリがない。そろそろ決着をつけよう」
「そうですわね。いっそのこと、弾に鎌を紛れ込ませて投げてみては?」
「いやいや。ゴブリン死んじゃうだろ」
「殺しちゃっていいですわ! 腰巻からワンパク小僧をポロリさせるなんて見苦しい! ゴブリンではありませんわ! ポロリンですわ!」
エルネスタは、レンタロウを始末しそうな勢いでバールのようなものを振り回す。
さらには、「ぎゃっふぁ~い!」とか言いながら、レンタロウの胸倉を掴み上下左右に大きく揺らしてくる。
「エルネスタ。声が大きいってば。ゴブリンが赤面してる……」
エルネスタとゴブリンとの闘いは、すでに始まっていた。
効果は絶大だったらしい。
3匹のゴブリンが両手で顔を隠し、その場にしゃがみ込んでいる。
恥ずかしいなら長ズボン穿けばいいのに……。
やっぱり緑のゴブリンってアホなんだな。
そんなことより、狂暴シスターが持っている武器的なものをなんとかしないと。
「バールのようなものを返して欲しいんだけど。一番持ってたらイカン人が手にしているのは恐怖なんで」
「いやですわ。ポロリンとレンタロウのとどめを刺すために私が持ってますわ!」
「ちょっと聞いて。僕はよそ者だから、この世界のゴブリンが悪いヤツなのかもわからない。だから殺せない。なんだか、あの3匹のゴブリンは悪いヤツには見えないんだよね。前に進めればいいんでしょ? 殺さずとも戦闘不能にすればいいだけの話っしょ? 緑のゴブリンってアホっぽいんだよね。僕に考えがある。ちょっと試させてよ」
「そこまで言うなら仕方ありませんわね。でも、ひと笑いさせてくれますわよね?」
「はい。がんばります……」
「そうですわ、レンタロウ。防御魔法をかけて差し上げますわ」
あるならもっと早くにかけてよ……。
大きなタメ息を吐くと、一抹の不安をいだきつつ、レンタロウはエルネスタのほうを向く。
「黒髪でやる気のなさそうなボンクラに、守護と昼食にはラーメンを……ラーメン」
またもや、エルネスタは祈りに麺類を放り込んでくる。
替え玉まで注文してきた。
レンタロウは、エルネスタに借りたケバケバのセーターを持ってゴブリンどもの前に立つ。よく見ると、真ん中にいるゴブリンだけが5分刈りだった。
「ゴブ刈りだからゴブリンっていうの?」
レンタロウの問いかけに、真ん中にいるゴブリンがポカンとした顔で首を横に振った。
「とりあえず横一列に並んで!」
レンタロウはゴブリンを整列させてみたが、特に意味はない。
3匹のゴブリンの腰巻に名札がついていることに気が付いた。
どれどれ……。
左から、翔、修、力。
消臭剤かよっ!
まあ、いいや……。
さきほどから、しきりに体を掻いている小柄なゴブリンにケバケバ・セーターを着せてみる。
「アゴまで覆うタートルネックセーターの着心地はどう?」
超短い丈のセーターを着用したゴブリンの顔から笑みがこぼれる。
「なんかね……首がチクチクするぅ!」
ひとことだけ残し、1分と経たずに小柄なゴブリンが気を失った。
レンタロウの思ったとおり、このゴブリンは敏感肌だったらしい。
「1匹目! いける!」
倒れたゴブリンからケバケバ・セーターを脱がせ、次のターゲットに狙いを定める。
ひとつ飛ばして、右にいるゴブリンに着せてみる。
効果がない。
脱がせたセーターをモミクシャにして、静電気を付加してグレードアップさせてみる。
「セーターを一度脱いで、また着てくれる? 胸元をゴシゴシしてみて」
レンタロウは素早くゴブリンの背後に回る。
着せて脱がせてを高速で繰り返す。
「お客様、よくお似合いですよ。着心地はいかがですか?」
「なんか、チクチクしてビリビリするぅ!」
バチっと音がすると、ゴブリンがぶっ倒れた。
「2匹目!」
後ろで見ているエルネスタの冷たい視線が背中に刺さって痛い。
最後に残ったリーダーらしきゴブリンにも同じことを試みる。
「レディース・ブランド……だと? 甘い! 姉ちゃんのお古を散々着てきたこの俺に、そんな技が効くと思うてか? リボンがついた赤やピンクの服、ボタンが逆についたヒラヒラした服。スカートまで穿かされたこの俺にぃ!」
小さいころの悲しい思い出を語りながら、自信満々の笑みを浮かべるゴブリンがヒザをつく。
多少ダメージを負ったようだが、倒すまでには至らなかった。
「そうか、大変だったな。わかる。わかるよ、その気持ち……」
まあ。ウソだけど。
思わぬ強敵に、レンタロウは拳を握りしめる。
考えろ……この猛者を殺さずに倒す方法を……。
「一度セーターを脱いでもらっていい?」
セーターを裏返し、タグが出た状態にして再度ゴブリンに着てもらう。
「セーターと腰巻からハミ出した緑のタマが素敵ですよ!」
レンタロウは、ゴブリンの尖った耳元でささやいてみる。
「いやだ……かっこ悪い……」
いじめ、かっこ悪いみたいなことを言いながら、最後に残ったゴブリンが地面に沈む。
「こ、これを持っていけ。“ノブナガ”だ。この先で必要になる」
リーダーらしきゴブリンが、息も絶え絶えに何かを差し出してきた。
「ドアノブじゃねぇか!」
レンタロウはどこでも使えそうにない、ちょいとお洒落なドアノブを受け取った。
ご丁寧にも、レースのドアノブ・カバーがついている。
つるつる滑って、ノブを回すのに手こずりそうだ。
手ごわい敵だったな……。
ゴブリンくさいケバケバ・セーターで額に滲んだ汗をぬぐう。
冷たい視線が待ち構えていることを覚悟して、レンタロウは恐々エルネスタのほうを振り返る。
はい。いませんでした。
ちょ、待てよ! と言いながら、レンタロウはエルネスタのあとを追った__。
エルネスタが極大のビンボー揺すりをして、ドアの前で待っていた。
ノブがないため、入れなかったらしい。
ゴブリンに貰ったドアノブを差し込む。滑って回しにくい。
何度やっても、ドアノブが回らない。
3分ほど試したが、ドアは依然として開かない。
しばらく黙ってレンタロウの様子を窺っていたエルネスタが、薄ら笑いで呟いた。
「ノブをつかんで引くタイプですのよ?」
ドアは、あっさりと開いた……。
ドアの先は、ハミデール王国の王都だった。
もとの世界に戻る方法などの情報をゲットしようと、人の集まりそうな場所へとレンタロウは向かった。
なけなしの硬貨・ゴブリンに渡されたハリセンと翻訳機を握りしめて――。