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夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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トランペットの音源収録は、圭を始め、部長の柏木、技術スタッフ二人が立ち会った。
名刺交換を済ませた後、収録作業の流れを侑に説明する圭。
少しだけウォーミングアップしたい、と申し出た侑に、柏木が快諾すると、圭は、奏者としての親友の様子を注視していた。
楽器ケースからマウスピースを取り出し、唇に当てて音を鳴らす侑。
トランペットを手に、マウスピースを装着させると、音階など基礎練習を始めた。
(侑にとって、音源収録の仕事なんて旨味がないだろうが、こうやってプロ奏者の音を間近で聴ける機会は、俺にとって貴重な体験になるだろう……)
朗々と響き渡る侑の音色が、圭の鼓膜を心地良く刺激するのを感じていると、侑がこちらに向き直った。
「…………ウォーミングアップが終わったので、いつでも大丈夫です」
「では、マイクの前に立って頂いて、こちらが指示する音を出して頂きます。よろしいでしょうか?」
「…………了解です。よろしくお願いします」
侑と柏木の短いやり取りの後、防音室の空気が張り詰めた雰囲気に変化する中、トランペットの収音作業が始まった。
音源収録は、予想以上に時間が掛かり、全ての作業が終了した時、既に昼を過ぎていた。
ここでも柏木のこだわりが炸裂し、侑に指示を多く出していたが、友人は淡々とした表情でトランペットを吹き、柏木は納得のいく音を収録できたのか、満足げに笑みを深めている。
「響野さん、お陰様で素晴らしい音色が収音できました。ありがとうございました」
「…………こちらこそ、貴重な体験をさせて頂き、ありがとうございます。楽曲制作アプリの完成、楽しみにしております」
柏木と侑が互いに一礼を交わしているのを見やりながら、圭は侑に近付いていった。
「響野さん。本当に……ありがとうございました」
圭は、侑に深く一礼し、視線を向ける。
「…………僕も、初めての仕事でしたし、楽しかったです。ありがとうございました」
圭と侑は、どちらからともなく手を差し出し、強く握手をする。
「では、遅くなりましたが、各自、昼休みに入って下さい。お疲れさまでした」
柏木のひと声で、収録作業に携わったメンバーが、防音室から退出していく。
「侑。見送りさせてもらうよ」
「…………ああ」
圭と侑はDTM事業部を後にすると、一階のロビーへ足を向ける。
「…………圭。これから昼休みなんだろ? せっかくの機会だ。久々にメシでも食わないか?」
「もちろんだ。なら、近くのカフェに行こう」
受付で来社許可証を返却した侑が圭に歩み寄り、口元を綻ばせると、圭は侑を先導して社屋を出た。
コメント
1件
侑さんのプロとしての佇まいが本当にかっこよかったです。ウォーミングアップから収録終了まで、淡々としながらも確かな技量が感じられて。圭くんが親友の音色を「間近で聴ける貴重な体験」と噛みしめてるところにもグッときました。最後の握手と「久々にメシ」の流れ、静かな絆がじんわり伝わってくる良い場面でしたね。