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管野アリオ
187
瑠璃マリコ
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232
職場近くのカフェに入った圭と侑は、店内の一番奥のボックス席に腰を下ろしていた。
午後になっても、カフェには、たくさんの客で埋まっている。
「それにしても……侑の音色は、相変わらずいい音を奏でるよな……。さすがだ……」
圭は、ランチセットのドリアをスプーンで掬いながら、しみじみと言葉を漏らす。
「…………圭に改まって言われると、何だか気恥ずかしいんだが……」
侑が、ボロネーゼのパスタを、フォークで絡めつつ、フッと笑みを覗かせる。
以降、男二人は黙々と食事を摂り続けた。
カフェの中の静かな騒めきが、旋律のないBGMのように圭の耳朶を優しく揺らしていき、大仕事を終えた彼の心に安堵をもたらす。
「そういえば、瑠衣さんは元気か?」
圭は、残りのドリアをスプーンで綺麗に掬い取り、口に運ぶと、アイスコーヒーに手を伸ばす。
「…………ああ。元気だ。トランペットのレッスンも再開したし、浦野さんともメッセージアプリで連絡を取り合ってるぞ」
侑の口から美花の名前が出た瞬間、圭は微かに表情を怯ませた。
「…………浦野さん、先月の連休明けから静岡に転勤になったんだろ?」
「あっ…………ああ。そう『らしい』な……」
侑の鋭い眼差しに、圭は焦ったように目尻を下げるが、親友は彼の不自然な笑みに気付いたのか、眉根に皺を深く刻ませる。
「…………おい。お前、そう『らしい』って何だ? まるで浦野さんの転勤を知らなかった、とでも言うような口振りだな」
(侑は顔つきも鋭いが…………勘も鋭い……)
圭は、猛禽類を思わせる侑の視線に向けられながら、舌を巻く。
「ああ。彼女の転勤は…………最近まで……知らなかっ……た……」
親友に取り繕ってみても、それは無駄だと感じた圭は、恥を忍んで本音を漏らす。
「…………浦野さんは、お前の彼女だろ? なぜ恋人の転勤を知らなかったんだ?」
低い声色で、呆れたように侑が言い捨てると、長い前髪をクシャッと掴んで掻き上げる。
「…………全部、俺の……せいなんだ……」
ポーカーフェイスを貼り付ける彼だが、トランペット奏者の親友には、ぎこちなく映っているだろう。
圭は、女遊びばかりしてきたというのもあり、過去に女絡みの事で誰かに話を聞いてもらった事は、一度もない。
しかし、美花は本気で好きになった女だ。
目の前の侑は、二人の仲を知っている。
「…………俺が……間接的に……彼女を傷付けて……」
苦渋に満ちた面差しを浮かべながら、圭は辿々しく言葉を綴っていった。
コメント
1件
うわ、今回のエピソード、めっちゃ胸に来た……。カフェの静かな空気の中で、圭が初めて自分の弱さを侑に打ち明けるシーン、すごくリアルで切なかった。普段はポーカーフェイスな圭が「全部、俺のせいなんだ」って言葉を絞り出すところ、心臓ぎゅっとなったわ。侑の勘の鋭さも恰好いいし、二人の関係性がちゃんと伝わってくる描写が好き。美花さんとの行方が気になる……!