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ホワイトゴブリン族のボブ子に貰った地図を頼りに、レンタロウは、ハミデール王国の王都を目指していた。
ボブ子の家から街までは一本道のはずなのに、どう間違えたのか。
レンタロウはダンジョンにたどり着いてしまった。
いまさらだが、地図を確認する。
ボブ子の家―――――――――ハミデール王都
目印が一切ないという、家と王都を線で繫いだだけのヤツだった。
王都よりマダガスカルのほうが早くみつかりそうだ。
ダンジョンまでの道順を示した案内板が目に飛び込んできた。
50センチおきに設置されているおかげで、全く迷う気がしない。
武器がないけど、とりあえず行ってみようか……。
1分ほど歩いたところで、村人を発見。
どぎつい紫色の修道服を着た少女だ。
声をかけて欲しそうに、こちらをチラチラ見ながら歩いている。
「バールのようなもの、とか、マッチョになれるスーツはいりませんか?」
少女は足をとめると、突然マッチョポーズを決めてみせる。
「サイド・チェストぉ!」
横向きになって胸を強調するポーズで、少女がアピールをしてきたときだ。
レンタロウは少女と目が合ってしまった。
やっちまった感をいだきつつ、カゴを背負った少女に駆け寄った。
「重そうなカゴだね。運ぶの手伝おうか?」
「バールのようなプロテインもありますよ?」
突然、少女はマッチョなオオカミ女に変身する。
話しかけてはいけない村人だったらしい。
問答無用で戦闘が始まった__
オオカミ女が、こちらへ向かって歩いてくる。
レンタロウの近くまでくると、オオカミ女はバールのようなものを振りかざす。
オオカミ女の放ったバールのようなものが宙を舞う。
空中でクルクル回転しながら、レンタロウめがけて飛んでくる。
攻撃を終えたオオカミ女は、その場で立ち止まる。
格闘ゲームのキャラみたいに肩と豊満な胸を揺らしながら、ファイティングポーズをして待機する。
攻撃はもちろん、移動もしないでその場にいるオオカミ女。
胸の位置が気になるらしく、頻繁にブラの位置を微調整している。
戦闘はターン制のようだ。
どうすればいいんだっけ。
何か言えばいいのか?
「僕のターン!」
あれ? 何も起きない。
なんだ……無言でもいいのか。
武器を持っていないレンタロウは、ダンジョンの案内板を手にとった。
空気嫁のカタクリ子は、空気が抜け切ってペラッペラ状態だ。
中年ジャンプ++を、盾として装備する。
「お客さん終点ですよ!」
レンタロウは、案内板でオオカミ女の頭を軽く小突いてみる。
「200メートル先で挫折です!」
壊れたカーナビみたいなことを、オオカミ女が告げた。
「左折しろ!」
ひとこと言葉を発しただけでレンタロウのターンは終了となった。
終わり?
オオカミ女が動く番だ。
さきほど投げたバールのようなものを、オオカミ女が回収する。
え? なにこのグズグズの戦闘……。
敵意むきだしのオオカミ女は、やはりレンタロウのあとを追ってくる。
モンスターといっても女性。
暴力は振るいたくないな……。
オオカミ女からの攻撃をさけようと、レンタロウは一歩あとずさる。
オオカミ女側へ行動権が移った。
バールのようなものを振り上げ、彼女? は、だれもいない場所を攻撃。
バールのようなものが虚しく空を斬る。
地面を叩く、乾いた音が響いた。
相当なダメージを受けたらしい。
彼女は膝をつき、ハアハアと肩で息をしている。
手がしびれたようだ。
バールのようなものを投げ捨て、泣きそうな顔で手を小刻みに振った。
さて、僕のターンだが……。
キリがない。
戦闘を終わらせる、いい手はないか?
「ちょっと休憩しない?」
終わりかよ!
レンタロウがオオカミ女に話しかけてターン・エンド。
レンタロウはただ逃げ回り、オオカミ女がブラの位置を直し、バールのようなものを空振りさせるという戦闘がしばらく続いた。
ボッチの戦闘が、これほど寂しいものだとは思わなかった。
体力・精神力はかなり削られている。
オオカミ女も疲弊しているに違いない。
「赤いブラが似合ってる、そこのキミ。やっぱり、休憩しよう」
レンタロウの言葉に、オオカミ女が頬を赤らめた。
突然、オオカミ女から元の姿に戻った少女。
熱にうかされたようにレンタロウに語りかける。
「心やさしき、勇敢なる者よ……そなたにこれを授けよう」
少女が水色のバールのようなものを差し出してきた。
「いらないっす」
「遠慮するでない。魔王を倒すには必要だぞ? もれなくバールのようなもの専用ストラップが付いてくるぞ?」
バールのようなものにストラップを装着できそうな穴などない。
やっぱり欲しくない。
「ニュースでよく聞くけど、“バールのようなもの”って何?」
「詳しく説明すると、短編小説1編ぶんになるが、どうするね?」
「ひとことでお願いします……」
「工具のバールと似て非なる、“なにか”のことでな。お主の目の前にあるそれだが、怪我をしないように、肝心な部分が特殊な作りになっておる」
触れてみると、クルっと曲がった部分がやわらか素材で出来ている。
「いらないです。この世界に魔王はいないと思うし」
「遠慮はいらん。持っていくがいい。大ボスを倒すには必要になるはずじゃ。いや、中ボス、小ボス、ボケナス……」
自信を無くしたのか、少女の声がだんだんと小さくなっていく。
挙句の果てには「強盗を働くときにも使えるはずじゃ」とか言ってくる。
「別の世界から飛んできたものらしいのだが……。なにやら、メイド・イン・ジャパンと書いてあるぞ。欲しくないのか?」
少女は、どうしてもレンタロウに渡したいらしい。けっこうゴリ推してくる。
バールのようなものは、背中を掻くのにちょうど良さそうだ。
せっかくだから貰っておこうか。
日本製なら品質は確かだろうし。
レンタロウはしぶしぶ、大きなカゴ・バールのようなもの、薬草一年分を受け取った。
「ひとつ忠告しておく。決してバールと断言するでないぞ。“バールのようなもの”か、“バールっぽいもの”と言い換えるのだ。わかったな?」
「覚えておきます。それで、バールのようなものは2本だけください」
「……そうか。では、代わりに修道女を授けよう。戦闘力はバールのようなもの100本に相当するでの」
とりあえず礼を言って、レンタロウがこの場を離れようとしたときだ。
「おまちください……。あなたのおかげで呪いが解けたようですわ。ぜひ、お礼がしたいのですが……」
バールのようなものを左右の手に持ち、カマキリのポーズを決め込んでいたレンタロウは、口調が変わった少女の方を振り返る。
視線の先には、変化がおきつつある少女の姿があった。
お子様サイズだった身長が伸び、160センチほどの大きさになった。
起伏のなかった胸が急成長を遂げ、山脈へと生まれ変わる。
わがままボディを抑えきれず修道服がビリビリと裂ける。
赤いガーターベルトが顔を出す。
黒いツヤツヤの髪が伸び、爪も伸びる。
体のあらゆるところが成長し、少女は20代前半くらいの妖艶な女性へと進化した。
「お礼なんかいいって。じゃ、気をつけて帰ってね!」
気が付くと、3つの太陽のうち、ひとつが地平線に隠れようとしていた。
疲れた。早く街に行って休みたい……。
レンタロウが早々に立ち去ろうとした瞬間、女性に再度呼び止められた。
「旅のおともに修道女はいりませんか? ミニスカートでもなんでも穿きますわよ? なんなら服は着なくてもよろしくてよ?」
「いや、露出狂や痴女は間に合ってますんで。変な鎧を着る女騎士っていうお色気担当に遭遇したんで大丈夫です。修道痴女という既存ジャンルもいらないんで。もう、お腹いっぱいなんで」
とは言ってみたものの、ヒーラーなら助かる。
それ以前に、かなりの美人。
ここでお別れするのは非常にもったいない気がする。
「私の名は『エルネスタ・ヤンデルクイーン』。とある魔術師に呪いをかけられていましたの。呪いを解く方法は、バールのようなものをすべて売り切るか、他人の目を気にせず、あられもない婦女子の姿を昼間からイヤラシイ目で見ることができるかた……。そう、いうなれば勇者。その勇者さまが私の目の前に現れる必要があったのですわ」
「なんだよ、その呪い……」
「だいぶお疲れのようですわね。呪いを解いてくれたお礼に、ほんの少し体力を回復して差し上げますわね」
エルネスタはゆっくり目を閉じ、胸のあたりで手を組んだ。
「目の離れたニヤケ顔のボンクラに祝福の雨とあられを……ソーメン……」
祝福に麺類を混ぜてきたエルネスタの祈りが、天に届いたのか。
少しだけ体力が回復したような気もするけど、よく分からない。
簡単にステータスが確認できるほど、この世界は甘くない。
残念ながら、体力全回復には至らなかった。
だるかった足が軽くなったところをみると、効果はあったようだ。
「修道院への寄付は随時受け付け中ですのよ。今なら、これ純銀だったらいいのになあって思う木の十字架を、金貨15枚でお譲りしますわ。マッチョになれるスーツは金貨20枚ですわよ。両方お買い上げの際は、これを差し上げますわ!」
レンタロウの後をついてきていた修道女のエルネスタが、しきりに営業をかけてくる。
十字架と変なスーツを買うと、もれなく痴女がついてくるそうだ。
「今日の晩ご飯はオムライスが出ますように……アーメン」
それとなく晩ご飯の催促をしてきたエルネスタに、ひとこと言っておこう。
オカネがないので、今日の晩ご飯はスライムと薬草を予定しています。