テラーノベル
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注文は任せるという話になり、適当な飲み物を見繕うことにした。
お任せとか、なんでもいいと言われるのが一番面倒なんだよ……。
5リットル入るジョッキにタピオカを移す。
今朝仕入れたばかりの紅茶スライムを絞り出した。
続けてミルクスライムを少々投入。
ちょっと小ぶりのガムシロップ・スライムを添えて終わり。
当店おすすめ“タピオカ・ミルク・スライムティー”の完成だ。
薄茶色の液体にタピオカの黒い粒が沈む。
タケノコのぶつぶつみたいで気持ち悪い。
自分なら絶対に頼まない品だろうな……。
重さ10キロを超える飲み物を持つと腕にくる。
レンタロウは、腕全体をプルプルさせながら、フロアへと運んだ。
「おい、メリッサ。私のパンツを降ろすな!」
へんな想像をかき立てる音声が、レンタロウの聴覚を刺激する。
おぎゃあ! と何かが生まれたような甲高い悲鳴があがる。
すげぇ音がしたけど何ごとだ?
慌ててフロアに来てみると、チーターが申しわけなさそうに壁のほうを眺めていた。
「こら、キヨコ。手加減しなさいって言ったろ? ほらごらん。お客さんが壁にめり込んでるじゃないか」
究極のバイトテロ……。
こうした事故が起こるため、来店するお客さんには鎧兜の着用を勧めている。これが店名『アーマー&ヘルメット』の由来だ。
「騎士さん。大丈夫ですか? それと壁も」
「問題ない。壁は知らんが」
女騎士は、めり込んだ壁からムングと脱出する。
ちなみに、壁の素材は超合金。
空いているソファーに腰を沈める。
カブトを脱ぐと、押し込められていた金色の髪がハラリと肩口に乗った。
改めて見るとキレイ系だ。
目が切れ長のせいかキツそうに見えるが、話してみると存外気さくだったりする。
お姉さま系好きの男子には堪らんだろう。
「この痴女は簡単に死なねえぞ! ちょっとおかしいけどな!」
さっきからテーブルをかじっているメリッサ。お前もだ!
「良いネコパンチだった。少々面食らったが、次はそうはいかんぞ!」
怒るどころかむしろ喜んでいる様子の女騎士は、涙目になったチーターの頭をゴリゴリとなでる。
普段から体を鍛えていそうな女騎士を、パンチ一発で壁にうずめたチーター(メス)の名は『キヨコ』。
苗字は水前寺だ。
「もとは野生だったのだろう? よく飼いならしたものだな。躾のコツをぜひ聞いてみたいものだ。やはり、グーでいったのか?」
「女子と動物には暴力はふるいませんて」
最初のころは、よく殴られていた。おかげで怪我が絶えなかった。
躾は特にしていない。レンタロウと動物との信頼関係とでも言おうか。
強いて言えば、動物を空腹状態でお客さんの前に出さないことだ。
「躾に関しては追々訊くとしよう。ところで店主。こちらに来て座らんか?」
「おお、こっち来い店主。メリッサに座るといいぞ。性欲みたしてやっから!」
「業務中ですので」
まだ死にたくない。
お願いしたいのは山々だが、サキュバスにハマった人の悲惨な末路を、レンタロウは知っている。
「ほかに客はおらんだろ。まあ、そのサキュバスに座るがいい」
レンタロウがサキュバスに腰かけた時だ。
ふたたび女騎士が口を開く。
「そうだ。まだお前の名を聞いていなかったな」
「そうでしたね。改めまして、滝岡連太郎(たきおか れんたろう)といいます」
「タピオカ・レンタル・ビデオ? はて? 聞きなれない言葉だな」
ビデオは、どこかへ返却してくれ……。
さきほどから至るところをまさぐる“肉座布団”という名のサキュバスも返却したい。
このサキュバス、なんかヌルヌルするし……。
「日本という国から来ました」
「ニシ・ニッポリ? そういえば、お前と似たような色の髪をした少女がいてな。名はなんといったか……。すまん、失念した。魔術師をしているとか。お前と同じニッポリ? から来たようなことを言っていた。興味があるなら“ハミデール王国”に行くといい」
「機会があれば……」
レンタロウはハミデール王国から追放された。
行きたくても行けないのだ。
「ところで、アデライド・ショウユ・トッテクレメンス様。いま着ている派手なピンク色の鎧兜は戦闘用ですか?」
「アデランスかアデルと呼んでくれていい。これか。見てわからんか? 外出用に決まっているだろう」
「いや、わからんて……。戦闘用も別にあるとか?」
「もちろんだ。お前は鎧に興味があるのか? ちなみに、戦闘用の鎧は純金製だ。戦場では目立ちたくないのでな。もっとも、最近は使っていないがな」
女騎士もポヤリンとした感じの人らしい。
鎧マニアのようだ。
訊いてもいないことを話しだした。
「就寝用は黒だ。外出・食事など用途に応じて鎧を変えていてな――」
「鎧を着て寝るんですか? なんだか缶詰になった夢とか見そうですね」
「息苦しくて目が覚めることがある。缶詰で思い出した。外食の際はな、青い兜にパールピンクの鎧、またその逆など、気分に合わせて組み合わせを変えている。どうだ?」
南国のでかいフルーツを思い浮かべてしまう。
「兜・左右の腕と脚、すべて色違いのコーディネートを試みていてな。その格好で街に出ると、もれなく子どもにイジられる!」
戦隊ヒーローを、ひとりで賄っている感じだろうか。
「なんでまた、そんなに鎧を集めているのですか?」
「ハミデール王国の実情を知っておろう?」
アデルはハミデール国王に仕える騎士だ。
「なんとなくは……」
「店主よ、ここには武器がねえんだぞ」
唐突に何を言い出すんだ、この全身ワイセツ物……。
「どうやって戦うんです?」
「戦わねえぞ」
「そうだな。メリッサの言う通りだ。まずは武器がない理由を説明してやろう。私の住むハミデール王国はここ数百年、戦をしておらん。『ズリオチール王国』との関係も良好でな。戦争・紛争とは無縁なのだ。ズリオチール王国も平和そのものなのだ。ハミデール王国はもちろん、各国でも武器の製造が禁止されている。武器の携行も禁止されていてな。いざこざが起きたらグーでいく!」
アデルはパンチの仕草をしながら、『数百年前の武器や兵器がどこかに残っているかもしれん』と付け加えた。
「モンスター狩りはしないんですか?」
「スライムを狩ることはあるが武器は使わない。少々凶暴なモンスターは生息しているが特に問題は起きていない。ゆえに討伐することはない」
「冒険者ギルドみたいな組織はないんですかね?」
「冒険者は存在するが僅かだ。ギルドはあるにはあるが、大きいものは存在していないと記憶している」
そうしたなか、平和ボケしたアデルは防具にお金をかけるようになり、鎧コーディネートに目覚めたようだ。
「なあ、連たん。メリッサな、顔面偏差値『85』のこれがほしいぞ」
何に使うのか理解していない様子で、カタクリ子を小脇に抱えるメリッサ。
持って帰る気満々じゃねえか!
「しばらく貸してあげますよ。顔面が微妙なんで」
|空気嫁が萌えるゴミなのか、燃えないゴミなのか、レンタロウには判断できない。預かってくれるなら好都合だ。
「おお! 連たん、いいやつ。お礼にこれやるぞ!」
メリッサは両胸からバンソウコウをはがし、レンタロウの両目に貼った。
頼むから眼球に直接貼らないでくれ……。
「なんだ? 連太郎はメリッサにえらく気に入られたようだな。高くもなく低くもない身長、何を考えているのか分からない、やる気のなさそうな顔と黒髪が気に入ったのかもしれんな」
「そうだな。メリッサな、野っぱらをパンイチで叫びながら走り回って、穴に落ちるアホな連たんが気に入ったぞ」
「メリッサは、しばらくズリオチール王国にいる。連太郎、その間コイツの相手をしてやってくれないか?」
「丁重にお断りします!」
「おう! メリッサも下半身の相手してやっからな!」
「いえ、シモのお世話は結構です……」
「遠慮するな、連太郎。椅子にするなり移動手段にするなり好きに使っていい。ソイツはもちろん、総じてサキュバスはドMだからな!」
「騎士さんは、なに言ってくれてんすか? 見返りが高くつきそうなんでやめときますよ」
「メリッサをスケベな椅子にしていいかんな! 性欲も満たしてやっからよ!」
そんなことはいい。
眼球に貼られたバンソウコウと、あふれる涙のおかげで何も見えない……。
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