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──金原の傷が癒えた頃、皆の胸の内に潜んでいたわだかまりも、徐々にほぐれ始めていた……。
八代は柳原商店に泊まり込み、店の再建と取りまとめに尽くしている。龍は神宮建設現場の頭として、金原の屋敷から通っている。
ここ柳原の屋敷は、金原と櫻子の住居の様になっていた。確かに珠子も住んではいるが、お浜に連れられ、お玉と共に、成田屋へ出向く為、昼間はほぼ、金原と櫻子の二人だった。
「あら?旦那様、それ……珠子さんですか?」
縁側で胡座をかいて座り込み、金原は、新聞を広げていた。
「ああ、いい宣伝になる」
お茶を運んで来た櫻子が、盆を置くと、新聞を覗きこむ。
「……マネキン・ガール……颯爽と街を歩く。職業婦人の新星現る……。ですか……」
「ああ、お浜の案でな、珠子さんには、成田屋の商品を宣伝してもらってる」
これで、いくらかは、客が増えるかと、金原の頬は緩んでいた。
「まあ、一日、ここにおられてもなぁ、きゃんきゃん煩いだけだろ?元々、ちやほやされて注目を浴びてたんだ。適任だろう?」
新聞には、ドレス生地で作った着物を着こなす珠子と、お玉の写真が載っていた。
「ふふ、お玉ちゃん、緊張してる。それに比べて、珠子さんは、流石だわ。物怖じ一つしないもの……私なんか……」
櫻子が、言うと同時に、唇に暖かな物が重なった。
「だ、旦那様!!!」
「ほら、お前も余裕あるじゃないか」
「それと、これとは、話がっ!!」
頬を染める櫻子に金原は目を細めた。
「なんなのっ!!!ハレンチだわっ!!!」
キンキン声が、背後で、これでもかと響き渡る。
「まあ、新婚だからねぇ。仕方ないよ。珠子、あんた、人のことに逐一目くじら立ててたら、いっぱしの職業婦人にゃーなれないよっ!!何のために、マネキン・ガールやってんだいっ!!」
「わかってるわよっ!私は、お姉様と違って、美貌を生かして生き残る!妾だなんだと、すぐに別の女に走る男達に、頼って生きるなんて、まっぴらだわ!!」
成田屋から戻って来た、珠子はいきがり、お浜が、それを見て肩をすくめていた。
あれから、金原と八代が手を回し、一連の騒ぎを収めた。珠子は、高井子爵家へ、身分不相応という理由付けをし、結婚の話は、辞退という形を取った。無論、ご機嫌伺いの為に、金原が金を用意したが……。
子爵は、母の逆鱗に触れ、亀松とのことも、お流れになる。
そこまでは、おおよそ、予定通りの動き。が、金原が勝代に刺された事は、予想外の出来事だった。
警察沙汰にすれば、余分な騒ぎを巻き起こす。と、皆、暗黙の了解で、触れることはなかった。
もちろん、ここでも、口封じの金は動いていた……。
そして、その勝代の消息は、途絶えたままだった。
こうして商いに支障が出ないよう、周囲を丸め込み、次は、珠子の番となる。
結局、新時代を生きる自立した女になれと、お浜が言いくるめ、成田屋のマネキン・ガールとして、職業婦人の道へ踏み出すように仕向けた。
珠子も、事実上、婚約破棄となったことで、傷物扱いされるのは、真っ平と、お浜の口車に乗り、今では、女商人になって、柳原商店の跡を継ぐとまで、豪語している。
どうやら、身に纏う成田屋の着物に皆が注目し、珠子の美しさを誉めるのが気に入ったようで、あれだけの騒ぎや、母親、勝代のことも、胸の内に封じているようだった。
1,983
#宵待ち亭
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