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体育館の天井は高く、音がよく響く。
マイクに触れた指先が冷たく、震えた。
遥の前に並ぶ椅子の列には、他クラスの生徒、保護者、教師――それに、自分のクラスメイトたち。
その一部が、唇を噛みながら笑いを堪えているのが見えた。
舞台袖の暗がりにも、スマホを構える姿がちらつく。
(もう始めるしかない)
司会の声が途切れ、マイクを握る音が体育館に響く。
「……三年二組、桐生遥です」
その一言で、空気が張り詰めた。
彼が何かを言うたびに、教室での嘲りが蘇る。
――『やめた方がいいと思う人ー!』
――『あの声じゃ寝ちゃうだろw』
――『恥かくだけなのにw』
それらの声が、まだ体育館のどこかで響いている気がする。
「僕のテーマは……“ひとりでいる時間”について、です」
少しのざわめき。
前の列で誰かが吹き出した。
笑いを堪えようとしても、喉の奥から音が漏れていた。
「えっと……ひとりの時間って、さみしいと思う人が多いと思うんですけど……」
彼の声は小さく、マイクの金属がそれを吸い込む。
「でも、僕は……その時間がないと、少し怖いというか……」
目の前の生徒の中で、何人かがスマホを覗き込む。
――(実況してる)
胸の奥が焼ける。喉が詰まる。
それでも言葉を止めない。
「人といるのが苦手で……でも、それを言うと“暗い”とか、“面白くない”って、言われることがあって……」
観客のどこかで、笑い声が弾けた。
小さな、でも確かな音。
それが空気を裂いて、波紋のように広がっていく。
「……それでも、人と一緒にいるのは、嫌いじゃなくて……ただ、どうしていいのか……」
声がかすれた。
紙を握る手が汗で湿って、ぐしゃりと音を立てる。
「――怖いんです。人といるのが。けど、ひとりも……」
その瞬間、体育館の後方で誰かが笑いをこらえきれずに吹き出した。
波のようなざわめきが起きる。
司会が困ったように視線を送るが、助けようとはしない。
遥は、喉が焼けるように乾いているのを感じた。
それでも、読む。最後まで。
目を閉じて、声を押し出す。
「――それでも、生きるために、話そうと思いました。ありがとうございました」
静寂。
拍手は遅れて、まばらに、乾いた音で鳴る。
舞台袖に戻る途中、数人がスマホを見ながら肩を震わせている。
笑っていた。
マイクの金属の匂いがまだ鼻に残る。
指の震えが止まらない。
ステージの上に残った自分の影だけが、まるでそこにまだ取り残されているようだった。