「あそこの環境はほんとどうにかしてあげられないもんかねー?」
ギルドに併設される施設の一つである事務方の建物のなかで、主任の中年女性がそう呟くのを、仕事中のここ最近自分が巨人族の1人だと知ることとなったデカブツが聞いていた。
つい先日の事だが、あの山の坑道で崩落が起こり、1人の鉱夫が生き埋めになったと。間の悪いことに鉱夫の子どもも居合わせていて、錯乱した子どもが手指の皮が剥けても血みどろになっても泣きながらツルハシで、指で、土を掘り続けていたのを力尽きて失神した所で街に連れてきて療養させているとのことだ。もちろん周りの鉱夫も救助に尽力しているようだが、まず見込みはない。
かと言って何が出来るわけでもない。
山なんて超質量のものに横穴を開けているのだから、それが崩れてきてもなんの不思議もない。
あの山でとれる鉄鉱石から自分達の生活道具は作られている。危険ではあるかも知れないが、なくてはならない仕事に命を張ってくれている。出来る事があればしてやりたいが崩れる山を支えるような事は流石に無理だ。
誰とも知らない他人のことだからか、この仕方ないと切り捨てる考えに気付きこの男は自己嫌悪を覚える。だが何も出来る事はない。
眼鏡をかけ直そうと指を持っていくが、自分が眼鏡をしていない事を思い出して手を下ろす。たまに人間だと思っていた頃のくせがでる。
そういえば……とデカブツは同じく思い出した事がある。
それはデカブツが師匠に戦闘指導を受けていた時だったが、このデカブツを目一杯叩きのめすために、自分のとこの練習場に何かを施していた。何とは教えられてはいなかったが、あの後あれだけ建物に打ちつけられて、周りに何の被害もなく話題にもなっていないことから、あれが建物を補強する何かのワザなのだと推測出来る。
そんな事を考えていると、数字を書き間違えてしまった。
とりあえずは目の前の仕事を終わらせてデカブツは、この件を久々に師匠のもとを訪ねて聞いてみることにした。
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