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およそひと月ぶりの師匠の店にデカブツは訪れる。
扉を開けて入る時に何故だかカランカランと鐘がなった。
「何故お前がまた?」
弟子の来訪を煩わしそうな言葉で迎えた店員。
「ちょっと聞きたいことがあって……なんですけど、何故ですかね?」
この店員の世話になった者たちは、非日常の中で己の目的を達成する事になるのだが、達成した時にいくつかの話を聞かされる。
そのひとつにこの鐘の話があり、自分達がそうであったように、この店員のチカラを必要とする来客の時にのみ鐘がなるのだと。仕組みは不明、そういう魔道具だと聞かされている。
そして達成された後は、その者がドアを開けようがくぐろうがなる事はない。実際に聞かされた時にも試しており、確かにならなかった。
というより世話になっている時にこの音に気づいていなかったので、鳴らない事の確認しか出来てはいなかったが、認識したことにより気づく事が出来たのだ。
「とりあえずその聞きたい事がそうなんだろう。話せ」
店員はそばの椅子を勧める。
耐荷重ギリギリか超えているのか、デカブツはギシギシとなる椅子に座り、坑道のこと、練習場のときのことを話して疑問を投げかける。
「確かにあれも魔道具によるもので、その効果は推測の通りだ。しかし恒久的なものでもないから坑道の補強などには使えん。いや、常に施し続ける事が出来るのなら可能かも知れないが、お前も知っている通りそうすると並大抵の攻撃にもびくともしなくなる。採掘など不可能だろう」
トンネル作りならありなのだろうがな、と店員は言う。
「だが、そうなると鐘は……イレギュラーなパターンもあると言う事か? サポーターも居ない事だし、お前は客ではないと言う事か」
客ではないのかなどと、普通の店であればとんでもない発言になっているが、当然そういうことではない。
「つまりはお前がそう思ったきっかけ、その鉱夫の子どもが今回の客の可能性が高いだろうな」
普段この店員は店から出ない。店が自分の仕事場で、なおかつ外に出る必要がないからだ。
とはいえ鎖に繋がれているというわけでもない。必要があれば外にも出る。
店員はデカブツと共に鉱夫達が街に来た際に常宿としているちょっと高級な宿に訪れた。
宿の従業員に案内されて、件の子どもが泊まっている部屋へとたどり着く。
ダリルたちが訪ねた部屋にはベッドで布団にくるまって頭も見えない膨らみと、出迎えてくれた年若い女性。聞けば少年の姉とのことだ。姉の顔にも疲労と涙の跡が窺える。
「初めまして、私は鍛冶屋の店員でダリル、こちらはギルド事務局のジョイス。そして──」
ダリルの視線はデカブツの後ろへと移り、挨拶を促す。
「俺っちはドワーフのバルゾイって言う。はぐれでな、ついこの間この街に流れてきたばかりよ」
やはり居たのだ。ぶっつけでやってきたダリルは内心ホッとしていた。