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「じゃあ、いずれ鴻上さんも重役ですか?」
「ん? いや。俺は奥山商事に関わるつもりじゃなかったんだよ。けど、まぁ、色々あって? 誉に手伝えって言われてさ。だから、経営に関わる予定はないよ」
「そうなんですか」
「がっかりした?」
「え?」
「この車もさファミリーカーじゃない。なんか、王子様のイメージじゃないって言うか?」
「そう……言われたことがあるんですか?」
知り合って間もないが、鴻上さんのことで気づいたことがある。
彼が自分のことを『王子』とか『イケメン』と言うのは、自慢とかナルシストとは違う。
必ず、負のエピソードがついている。
それを、忘れたいか、笑って聞き流して欲しいかで、自分をそう表現するのだと思う。
「高級外車やスポーツカーに乗ってそう、って言われたことはあるかな」
確かに、それなら完璧だろう。
私には、完璧すぎて近寄りがたいけれど。
「鴻上さんはそういう車に乗りたいんですか?」
「え?」
「鴻上さんが乗りたい車に乗ったらいいと思います。隣に乗せたい女性がいるなら、その女性の好みに合わせるのも仕方ないかもしれませんけど」
私も、鴻上さんを『極上イケメン』と言った。
それも、彼にはある意味でプレッシャーになっているのだろうか。
「乾さんは?」
「え?」
「どういう車に乗ってる男が好き?」
「はぁ……。考えたこともありません」
「そうなの?」
「はい。車に詳しくありませんし、男性に好みを押し付けられる身分でもありませんから」
大体、男性が運転する車に乗ったのも、片手で数えるほどだ。
大学の時の彼が時々親の車に乗せてくれたくらい。
もちろん、高級外車やスポーツカーであるはずがない。
「ただ! 高級外車やスポーツカーは私の体型には狭いと思うので、広々とした鴻上さんの車は好きです」
高級外車もスポーツカーも乗ったことはないけれど、狭いそうなイメージだけはある。それから、車高が低いから車酔いしそうだ。
あ、高級車ならエンジン音も静かなのかな?
「良かった」と、鴻上さんが言った。
「女性の体型云々には触れないけど、俺も車高が高めで広い車が好きなんだ。車高が低いと、酔っちゃいそうで」
「あ! 私もそう思います」
「ホント? それに、祖母を乗せることもあって。だから、広い車が便利なんだ」
お祖母さんと仲がいいんだな、と思った。
私の祖父母はもう誰も生きていないから、羨ましい。
「乾さんは俺を人間扱いしてくれるね」
「え? 人間じゃないんですか!?」
「まさか。人間です。けど、何て言うの? アイドルはトイレに行かない、みたいな目で見られたことがあってね。それも、『残念王子』の由来なんだけどさ。不運が続くのと、ドジだったり、肝心なところで格好つかなかったり?」
「はぁ。やっぱり苦労が多いんですねぇ、イケメンさんも」
「そうなんだよ。折角できた相棒は、いつまで経っても敬語が抜けないし。傷つくよなぁ。いくら相手が極上イケメンでも、距離感じちゃうんだよなぁ」
見え見えの芝居がかった残念そうな口調に、私はぷっと吹き出した。
信号で停車し、彼が私を見た。
ハンドルを抱きかかえるようにしてもたれる姿は、王子様そのものだ。
「今日はプライベートなんだし、友達として仲よくしよう?」
ほ、ほ、ほ、惚れてまう――――!!
口から心臓が飛び出しそうで、食事どころではないのではと思ったが、それは全く問題がなかった。
「なにこれぇ……。ふわっふわぁーーー」
私は頬に手を添え、口の中で蕩けるパンケーキを味わう。
駅から三十分ほど歩かなければいけない場所にあるカフェは、コーヒーはもちろんパンケーキでも有名。
パンケーキは三枚の生地の他は全て自分で選べる。
私は、キャラメルソースにローストナッツとアイスクリームをトッピングした。ドリンクは、セットからマイルドコーヒー。
鴻上さんは、チョコレートソースにイチゴとバナナをトッピングし、ドリンクはマイルドコーヒー。
実はどちらも私が食べたいもの。
私があんまり迷うから、シェアしようと言ってくれた。
取り皿を貰って、お互いの生地を一枚ずつ交換する。
「すごい柔らかっ! こんなの、初めて食べたかも」
鴻上さんもお気に召したようで、パクパク食べている。
良かった。
この数日、サラダメインの食生活をしていた反動か、幾らでも食べられそうだ。
話もそこそこに、夢中でパンケーキを堪能した。
「次はベリーソースにしようかな」と、食べ終わった鴻上さんが言った。
「いいですね。私はメイプルが気になります」
「またシェアしよう」
それは、『次』も私と一緒に来るということ……?
パンケーキはもちろん、彼のその言葉も私にとっては嬉しい誕プレとなった。
お互いにもう一杯ずつコーヒーを注文した。
今度は、セットにはなかったブラジルとモカ。
自家焙煎のこだわりコーヒーということもあり、確かに高級感漂う一杯だった。
「贅沢ですねぇ」
「ん?」
「素敵な男性と美味しいパンケーキと、美味しいコーヒーなんて、私史上最高の誕生日です」
「恋人とあまーい誕生日を過ごしたことはないの?」