テラーノベル
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華子はキッチンへ行き冷たい水をグラスに注ぐ。それを一気に飲み干すと、
「まさかこんな事になるなんて! 予想外だったわ…」
華子はボソッと呟く。そして急に思い出した。
(あっ! 野崎にメッセージしなくちゃ!)
「陸! お風呂の前にここの住所を教えてー」
華子はスリッパの音をパタパタさせながら陸の寝室へ向かう。
華子が寝室へ入ると陸は上半身裸だった。その鍛え上げられた肉体を見て思わず華子は声を上げる。
「キャッ!」
「おいおい、このくらいで驚いていたら俺の婚約者にはなれないぞ」
「べっ、別に、驚いてなんかいないわよ。ただびっくりしただけよ」
「で、なんか用があったんだろう?」
「あっ、そうだ、ここの住所を教えてよ。荷物の送り先を変更してもらうから」
「わかった、ちょっと待ってろ」
陸はそう言って上半身裸のままリビングへ向かった。
「あーびっくりしたぁ…」
華子は心臓をドキドキさせたまま部屋の中を見回す。
寝室は十二畳ほどだろうか?
室内はグレーを基調としたシンプルなインテリアでまるでホテルのようだった。
クイーンサイズのベッドの横には大きな窓があり夜景が煌めいている。心癒される景色だ。
壁際にはシンプルなグレーのチェストが二つ並んでいた。
その片方には、大きな鏡が載っている。
窓辺に置いてある椅子を使えば、ドレッサーとして使えそうだ。
よく見ると鏡があるチェストの上には華子の化粧品類が置かれていた。
華子が自室の出窓に並べていたものだ。
つまり鏡のあるチェストを華子が使ってもいいという事らしい。
(アイツ、結構気が利くじゃない)
華子はフフッと微笑む。
天井まであるクローゼットの左右どちらかに華子の衣類が入れられているようだ。
段ボールに入っていた華子の細かな私物は、クローゼットの前の床に置かれていた。
細かい物をどこへしまおうかと華子が悩んでいると、陸がメモを手にして戻って来た。
「住所はこれな! その荷物はこのチェストを使うといい。右側は俺で左側が君だ。クローゼットも右側が俺で君は左側を好きに使っていいから」
「わかったわ、ありがとう」
「じゃあ風呂に入ってくるよ」
陸はバスルームへ向かった。
(チェストもクローゼットも、半分は空だったのね…もしかして将来の奥様の為に開けておいたのかしら?)
それから華子は、段ボール箱に入った私物をチェストへ片付け始めた。
荷物は少ないのであっという間に片付いた。
手持ち無沙汰になった華子はこのまま寝室にいるのも変な気がしたので、一旦リビングへ戻る。
そして何をするでもなくソファーに座り、テレビのチャンネルを変える。
ニュースやバラエティーなど色々な番組がやっていたが、どうも頭に入ってこない。
(何ソワソワしているのよ! 銀座の夜の世界から愛人まで経験した華子様でしょう? 何も怖がることなんてないわよ)
華子は自分に喝を入れた。
しかしなんだか余計にソワソワしてしまう。
その時、陸がバスルームから出て来た。
陸はシンプルなスウェットの上下を着ていたが、生地が薄手なのでどうしても筋肉隆々の体型を意識してしまう。
(これみよがしにマッチョを見せつけないで欲しいわ)
華子は陸から目を背けながら思った。
陸は冷蔵庫から水を取り出してゴクゴクと飲んでいる。
水を飲み終えると、チラッと華子を見てから、
「もう遅いから寝るぞ! 明日も仕事だろう?」
華子にそう言うと、さっさと寝室へ歩いて行った。
(華子、覚悟を決めるのよ。あなたももうりっぱな大人なんだから)
華子は意を決すると、リビングの電気を消して寝室へ向かった。
寝室に入ると、陸はベッドの上に座りベッドサイドの明かりを点けようとしていた。
そしてナイトテーブルの上にあった本を手に取る。どうやら読書をするらしい。
華子が寝室に入って来た事に気づくと、片手でベッドを軽く叩いてここだよと合図をする。
華子は唾をごくりと飲み込むと、勇気を出してベッドへ近づいた。
そこで陸が言った。
「俺はお前がその気になるまでは一切手は出さない。だから安心して寝ろ!」
陸はそう言って枕を重ねて高くするとそこへもたれかかった。
そして経済関連の難しそうな本を読み始める。
(なんだ…そういう事なら最初から言ってよね…変に身構えちゃったじゃない)
華子は若干ふてくされ気味にそう思うと、ベッドへ上がり布団へ入った。
そして陸から少し離れた位置へ横になると陸に背中を向けながら目を瞑った。
(前のマンションのベッドとは段違いの寝心地の良さだわ)
マットの硬さや弾力がちょうど華子の好きな感じだったので思わずにんまりする。
しかしすぐ隣にはアイツがいるのだ。
(このベッドに一人だったら最高なのにな)
そんな事を思っていると陸が言った。
「しばらく灯りをつけていても大丈夫か? 気になるならリビングで読むけれど」
「大丈夫よ…」
「じゃあちょっとだけ読書をさせてもらうよ」
「ん、おやすみー」
急に眠気が襲って来た。
華子は今日色々あってクタクタだった。
仕事中は加瀬にしごかれ、家に戻ってからは思いもしない展開になり一日中ドタバタしてなんだか凄く疲れた。
(もうゴタゴタは勘弁だわ)
そう思いながら華子は欠伸をすると、あっという間に眠りに落ちた。
陸が本に集中していると、隣にいる華子からスース―と寝息が漏れてきた。
華子はこちらに背を向けてぐっすりと眠っている。
華子の背中はとても華奢だった。
その華奢な身体から漂う女性らしい香りが陸の鼻をくすぐる。
思わず陸は微笑んだ。
そして再び視線を本へ戻すと、しばらくの間読書を続けた。
寝室の窓からは煌々と輝く月が見えていた。
コメント
2件
陸さんのマッチョな肉体にドキドキしたり( 〃▽〃)、かと思えば、隣で 安心してスヤスヤ眠ってしまったり....Zzz 華子チャンは 陸さんの傍にいることで 安らぎを感じているようだし、たぶん無意識のうちに 彼を好きになっているんだろうなぁ....💓
まだ保護者のように見える陸さん。今はまだ華子が本気で結婚したいとは思ってないんだろうなぁ… でも陸さんの人となりが見えたらその気になるのは時間の問題かと思うけど😊🤭✨💕💓