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「……これ以上、私から教えることは何もありません」
フラムに魔法を教わってから1ヶ月が経過した。
この1ヶ月は日中はフラムに魔法を教わりながら、夜は王国史や帝王学、魔法学などの書物を読み漁った。
司書のカメリアの本のチョイスも十分読み応えがあった。
当初は学びを目的にしていたが、今となっては純粋に好奇心を刺激され、個人的には楽しく読むことができた。
もちろんフラムに魔法を教わるのも、楽しささえ見出していた。
いくつになっても知識や学びを得るというのは中々に気持ちが良い。
そんな生活をしながらも、いつものように修錬場に向かったところフラムに『私から教えることはない』と言われてしまった。
「ふむ……理由を聞いてもいいか?」
たしかに、イヴィルは『月は魔法と踊る』では悪役ではあるかもしれない。
しかしながら、魔法を学ぶにあたって悪い態度を取ったつもりはない。
むしろ敬意さえ抱いていた。
故に、心あたりがなさすぎるのだ。
「文字通りでございます。魔法のことに関して私がイヴィル様に対して教えられることは何もないのです」
フラムは満足げな笑顔を浮かべて言う。
「本来であれば5年はかかる内容を1ヶ月で習得されたのです。1を聞き、100を理解するだけでなく、貪欲な知識欲があったからこそ成せるもの……魔法使いとして理想な姿です。そんなイヴィル様に師事できたことは私の生涯にとって自慢になるかもしれません」
「そう言うには、実績が伴っていないが……」
俺はフラムの言葉にそう返すと、
フラムは眉間に寄せながら言う。
「ですが、はみ出た糸は目を付けられる……イヴィル様はそのことを認識してくださいませ」
「ふむ……そういうことにしておこう」
出る杭は打たれる。と言いたいのだろう。
とはいえ、なるべく手の内を見せないことも戦略としては正しい。
なるべく、少ないと思わせる能力で敵を制圧するやり方は覚えていても損はないだろう。
「しかし、俺はその術を知らない。やはり、フラムにはまだまだ教えて貰わねばなるまいな」
「ふふふ……イヴィル様は優しいですね」
フラムは楽しそうに笑う。
……冗談ではないのだが。
「それでは、近日中までにやり方を考えておきます」
「よろしく頼むよ」
フラムとそんなやり取りをしていると、
「あ、あの…… ヴィルサレム様の書斎に向かいたいのですが……」
長い金髪碧眼の少女に話かけられる。
「父の書斎に……? 誰だ貴様」
まだ幼さが残るが明らかに美形。
大きな瞳に長いまつ毛。整った顔立ちに綺麗な鼻筋。
美少女という文字を擬人化させたらできましたみたいやつだと思った。
「私は……アリス・キングストンと申します。訓練中でしたよね? 申し訳ありません」
「アリス・キングストン……?」
まさか……! あのアリス・キングストンだと……?
アリスとは『月と魔法は踊る』でヒロインの王女と敵対することになるキャラだ。
幼少期の頃からヒロインの王女と仲が良く、学園編でも仲が良い。
しかし、魔族の幹部に捕らわれることによって魔人化してしまう。
そのまま、主人子とヒロインの王女は魔人化したアリスを倒すが、
結果としてアリスが死んでしまう。『月と魔法は踊る』では救われないエンドとしても有名だ。
ゲームのユーザーとして遊んでいた当時も同情はした。
本当にクソみたいなエンドだと思った。
だからと言って、わざわざ俺自身がバッドエンドを立てる必要はない。
ここは早急にお帰り頂かねば。
「……これはこれはキングストン侯爵令嬢。ようこそヴィルサレム公爵家へ。俺はイヴィル・ヴィルサレムと申します。先程の非礼をどうかお許しください」
「いえ、むしろ邪魔したのは私の方ですから」
「とんでもない。父の書斎ですが、奥にある建物がございます。そちらの建物にお入り頂ければ当家の使用人が案内致しましょう」
俺が口早に言うと、
フラムが口を挟んできた。
「イヴィル様。今日はすることはありませんから若いお二人で花を咲かせて下さい」
お前、ぶち殺すぞ??
さっきまで抱いていた敬意を返してほしい。
本当に余計なことを言わないでくれ。
「いや、俺は一刻も早く魔法を極めたいのだ。すまないが――」
「――お言葉ですがレディを案内するのも紳士の嗜みですよ? それとも照れておいでなのですか?」
フラムは煽るような口調で言う。
「照れる? この俺がか? 冗談も甚だしい」
「それでは行けますよね?」
「はぁ……仕方あるまい。それではレディ。ご案内致しましょう」
俺は重い溜息を吐いて、アリスに手を差し出す。
「いいんですか? ありがとうございます!」
アリス嬢は大層お喜びのご様子。
俺の見た目が10歳である事実は変わりない。
フラムとしても俺を子供扱いしている節がある。
だとしたら、ささっと案内して魔法の特訓に戻るのが吉だろう。
「さすがイヴィル様です」
「そういうことにしといてやろう」
いちいち反応していたら疲れそうだ。
しかし、アリスは少し言い淀んだ形で口を開く。
「ですが……お手を煩わせる訳にもいかないので、近くまでご案内頂ければ……」
「アリス様。お言葉ですがレディを案内するのは紳士であるイヴィル様の勤めですが、紳士の優しさを引きたてるのも、またレディ勤めだと思いますよ」
「で、ですが……」
アリスはフラムの言葉に躊躇をしていた。
アリスが何を思っているのかは『月と魔法は踊る』の内容から、なんとなく察している。
察してはいるが……、
「はぁ……アリス嬢。こんなことで時間を無駄にしたくないのでね」
俺はアリスにはっきりと言う。
紳士とは何か知ったことではないが、俺にも時間がないのだ。
「わ、分かりました。それではお言葉に甘えさせて頂きます」
俺はアリスの言葉に頷きながら、修練場を出るように促す。
俺はアリスの歩幅を急かすように、アリスと共に修練場を出た。
俺は書斎に向かう道中、アリスに謝罪をする。
「先ほどは、ヴィルサレム家の人間が失礼をした。フラムも悪気はないのだ。許してくれ」
「い、いえ……それは構いませんが……」
お許しも頂いたことだし、少しアリスの話を聞いてみるか。
「ところで、アリス嬢はどうしてこちらに?」
俺はアリスに尋ねる。
「実は私が住んでいるキングストン侯爵領でモンスターが活生化しておりまして……父と共に魔法石を買わせて頂けないか相談に参った次第でして」
「なるほど」
そういえば、『月と魔法は踊る』の世界ではキングストン侯爵領は常にモンスターの危険と隣り合わせだったな。
新聞や王国史を読みはじめてから、土地柄の都合でモンスターが多くなった。そんな印象を受けたけれど。
「それは心中お察し致します。早く平和になるといいですね」
心の底から思う。
俺も早く安寧を得たい。
それは見ず知らずの民も一緒のはずだ。
「ところで、先ほどからアリス嬢は不安を抱かれているようだが……何か悩みがあれば聞きましょう」
「……ははは。イヴィル様は私と違って聡いのですね。ですが、イヴィル様にご迷惑をかけるわけにはいきませんから――」
「――アリスお嬢様。こちらにいらっしゃったのですか。探しましたよ」
アリスは言葉を途切れ、身体をビクリと震わせる。
振り返ると執事服を身に纏った男が舐めたような目付きで俺とアリスを見ていた。
「アリス嬢の連れかな?」
俺がアリスに尋ねると、何故かアリスの言葉を待たず執事姿の男が口を開く。
「お初にお目にかかります。私はアリス様の執事をさせて頂いております。サバトと申します。以後、お見知りおきを」
「あぁ……こいつが」
『月と魔法は踊る』アリスが闇堕ちする元凶。
今日は厄日なのかもしれない。
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