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坂道を走り、細い道を何度か曲がって着いた先は、高台の公園だった。
この公園からも郊外のちょっとした夜景が望める、と豪が説明する。
駐車場も完備されていて、彼の車以外にも数台止まっているが、どの車も間隔をかなり空けている。
彼も、駐車場の一番奥に車を止めた。
「少し、外に出ないか?」
「はい」
車から降り、豪は当たり前のように奈美の手を繋ぎ、指を絡める。
公園の奥へ進むと夜景が広がり、美しい景色に彼女は声を上げた。
「うわぁ…………すごく……綺麗……」
「ここは奈美の自宅から、そんなに遠くないと思う。まぁでも車で二十分ほど掛かると思うけどな」
夏の湿り気を帯びた風が、二人を撫で付けていき、眼下には、南北に行き交う光の粒が見えた。
それは、先ほど通ってきた国道らしい。
「私の自宅から適度に近い場所に、穴場的スポットがあるなんて、全然知らなかった……」
(豪さんは、意外と東京郊外の土地勘があるような気がする。やっぱり、生まれ育ったのがこの周辺なのかな……)
奈美の考えている事を手に取るように、彼が見下ろして微笑む。
「大学は都内だったけど、高校や大学の友人が、こっちに住んでるヤツばっかだったから、自然とこの周辺の土地勘は詳しくなった、っていうのもあるな」
「そうなんですね」
それにしても、本当に自分は話し下手だな、と奈美は思うし、豪と話してても、相槌しか打てない。
自分の事を進んで話すのも苦手だし、何だか恥ずかしいって思ってしまうのだ。
「奈美は一人暮らしだっけ?」
「そうです」
「地元は?」
「立川……」
ああ、と納得した表情で豪が頷く。
「だからあのSNSのプロフで、立川駅周辺でって書いてたのか」
「豪さんの地元はどこなんですか?」
「俺の地元は都内寄りの武蔵野市」
彼の地元は、住みたい街ランキングに入っている、あの街らしい。
吉祥寺周辺は、指で数えられるほどしか行った事ないけど、街がすごくお洒落なイメージだ。
豪が、チラリと腕時計を見る。
「もう二十三時か。ホントあっという間だな……」
「え? もうそんな時間ですか?」
「マジで名残惜しいけど、明日も仕事だし、帰んねぇとな」
奈美が黙ったまま頷くと、彼は、そろそろ行くか、と小さな手を引き、駐車場に戻った。