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#和風ファンタジー
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プリントアウトされた整備記録を預かり、刑事二人は逗子の店を後にした。
眼鏡をかけた刑事が、小太りの刑事に言った。
「逗子は糸原の行方を、知らないみたいでしたね」
「そうだな……。糸原と逗子は、どこかで落ち合う約束でもしているのかと思ったが……違ったようだな」
小太りの刑事は、落胆した表情を見せた。
「糸原をラマンホテルで見失ったのは、痛いですね」
「ああ。彼女は我々の尾行に、気づいてなかったはずだ。姿を消して、どこに行ったんだ」
悔しそうな顔をする小太りの刑事に、眼鏡の刑事は言った。
「やはり糸原は、ラマンホテルに、今もいるのではないですか?」
「俺もそう思うが、支配人は糸原が宿泊していないと言った。誰かと会ったかと聞いても、誰とも会った様子はないと言うからな」
「それも本当ではないと思うのですが、令状があれば……」
小太りの刑事は、眼鏡の刑事の肩を叩いて、
「仕方ない。とにかく、俺たちは俺たちで調べていくしかない」
と言った。
眼鏡の刑事は「そうですね……」と呟くと、ハッとした顔になった。
「そういえば、南署で梶原紗羅の弟、梶原樹を調べているらしいですよ!」
「弟を?何のために調べているんだ?」
「梶原樹の過去、彼をいじめてた同級生、当時の担任、最近まで付き合っていた元カノが次々と死亡したんですが……」
「次々に死んだ?」
眼鏡の刑事は困惑した顔で頷く。
「はい。それもおかしなことに、全員が死ぬ間際になって梶原樹の名を口にしていたようなんです」
「全員が死ぬ間際に?いや、ちょっとそれはおかしいだろ?今、梶原紗羅と弟、二人して意識不明だろ?」
「そうです。全員が亡くなったのは梶原樹の事故に遭った後なので、彼が物理的に関与することは不可能なんですが……。
全員が彼の名前を口にしたことは、何らかの関係性があるのかもしれないと、調べているそうです」
眼鏡の刑事からの話を聞いた小太りの刑事は、眼鏡の刑事と同様に困惑した表情を浮かべながら
「……なんだか、オカルトめいた話だな」
と言ってから、少し考え込んだ。
そして何か思いついたような表情になった小太りの刑事は、眼鏡の刑事の顔を見据えて言う。
「弟のことは、梶原紗羅の件と全く関係ないと思うが……。向こうに何か進展があったら、こちらにも伝えて欲しいと言っておいてくれるか?」
眼鏡の刑事は「わかりました」と頷いた。
話しながら歩いていた二人は、車を停めていたパーキングに到着した。
小太りの刑事は先に車に乗り込み、眼鏡の刑事が精算機で支払いをしようとした。
眼鏡の刑事の後ろに、同じく支払いをしようとする男が並んだ。
眼鏡の刑事が支払いを済ませて、小太りの刑事が待つ車に向かうと、後ろに並んで精算機の支払いを待っていた男は支払いをしなかった、
男は刑事たちの乗っていた車が走り去っていくのを、無言で見つめていたのだ。
そして男は車が去ったのを確認すると、踵を返すように歩いて来た道に戻っていった。
やや早歩きをして戻って行く男は、逗子のガレージ倉庫の店舗まで戻った。
その店舗から少し離れた場所にある車に、男は近づいていく。
車に近づいた男は、後部座席のドアの窓を軽くノックをすると——
窓ガラスがゆっくり下に降りていった。
開かれたドア窓から見える後部座席。
そこに座っている男は——森幸平だ。
「中に入れ」
森が低い声で言うと、男は後部座席のドアを開けて車に乗り込んだ。
男は森に、静かな声で言う。
「幸平様、ご報告いたします」
男からの報告内容を聞いた森は、
「わかった」
と低い声で言った後、運転手に向かって言う。
「一旦、戻る。車を出せ」
森の乗った車は、静かに去っていった。
数時間後——夜の帳が降りて、ガレージ倉庫のショールームを除いて、全ての灯りが消えた。
店に『closed』の札が掲げられると、一台の車が静かに店の前に停まった。
車の後部座席側のドアが開く。
ゆっくりと車から出てきたのは森だ。
森は鋭い視線を店に向けた。
——
逗子は従業員がいなくなったショールーム、修理工場を見回った。
薄暗い修理工場には、ショールームの灯りが僅かに差し込んでいた。
その灯りを背に受けていた逗子は、修理工場のドアを閉めようとしたが、足元の影が大きく伸びていることに気づく。
だが、それだけではなかった。まるで後ろに人がいるかのように、影が大きく伸びているのだ。
それがどんどん伸びているようにも見えた逗子は、恐る恐る後ろを振り向いた。
だが、誰もいない。
——気のせいか。
ショールーム以外の灯りがある社長室に戻った逗子は、少しホッとした気持ちになった。
——何に安心をしているんだ、俺は……
過剰にビクついていた自分に、逗子は苦笑した。
そして気を取り直して、逗子は金庫に向かった。
売り上げ金が入っている金庫を開けた逗子は、金を集金袋に入れた。
金を入れ終えた逗子は、金庫に残っていたA4サイズの封筒に目を向ける。
ラマン生命保険株式会社と書かれた封筒。
中には逗子と紗羅の保険証書が入っていた。
その時、インターフォンの音が響き渡った。
——誰だ?店が閉まってるって、わかるだろうに……。
逗子はインターフォンを無視したが、鳴り続けるインターフォンにしびれを切らして、応対することにした。
「もう、営業は終了してますよ」
と言うと、インターフォンの画面には誰も映っていない。
——なんだ、いたずらか。
そう思った逗子がインターフォンを切ろうとすると、画面にぬっと人の顔が映った。
「え?」
思わず声をあげた逗子は、画面を凝視する。
インターフォンに映った顔——森だった。
「遅い時間に申し訳ない。開けてくれるかな?」
森は片方の口角だけ上げて、ニヤリと笑った。その顔を見た逗子は、呆然と画面を見つめた。
「早く開けてくれるかな?」
森の声でハッとした逗子は、
「は、はい。ただいま開けます」
と言ってエントランスドアを開錠すると、ショールームへ走って行った。
エントランスドアの向こうにいる森は、スラックスのポケットに両手を忍ばせ、気怠げに立っていた。
逗子は慌ててドアを開いた。
「お待たせしました。森社長、今日は……」
「入るぞ」
森は逗子が言い終えないうちに、店内に入り辺りを見回した。
「あの……」
逗子がオドオドと声をかけると
「社長室まで案内もしないのか?」
森は嫌味ったらしい顔で笑みを浮かべた。
「あ、いえ……こ、こちらにどうぞ」
逗子は慌てて、森を社長室に案内した。
逗子が社長室のドアを開けると、開きっぱなしの金庫とデスクに無造作に置いた集金袋と封筒が視界に入った。
逗子は慌てて金庫の扉を閉めた。集金袋は椅子の上に置いて隠そうとしたが、森は鼻で笑って言った。
「店の金に手をつけて、飛ぶ気か?」
「え?」
「糸原がいない上に警察が来た。逃げるしかないと思ったんだろ?」
森はソファーに向かうと、ドカッと身体を沈ませて座り、すぐさま脚を組んだ。
森は立ち竦む逗子に、冷徹な眼差しを向けて言った。
「飛ぶのは勝手だが、貸した金は返してもらうぞ」
「え?今、ですか?」
「当たり前だろ」
「え、でも……その、今は」
「梶原紗羅の保険金が入らないから、返せない……とでも言いたいのか?」
「ッ!」
言葉を詰まらせて、逗子は顔を下に向ける。
森は社長室のデスクを見て、言った。
「返せないなら、お前が契約した保険証書を渡せ」
「え?」
「お前と梶原紗羅の保険証書、両方だ」
逗子と紗羅の保険証書を渡せと言った森の威圧的な視線に、逗子はブルッと身体を震わせた。