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第27話:黄波地区対抗戦・開幕戦
体育館ほどの広さを持つ香波アリーナ中央会場。
観客席には数百人の応援客が詰めかけ、空気にはそれぞれの香波が溶け合って渦を巻いていた。
波感知者にとっては、そこに立つだけで胸がざわつくほどの情報量だ。
拓真は黄色いラインの入った公式ユニフォームに袖を通していた。
短めの黒髪は軽く汗で張り付き、額には緊張の影が浮かんでいる。
隣には、親友の陸——短髪の焦げ茶色、鋭い目つき。絶香者特有の“波の見えない空間”が彼の周囲だけぽっかりと空いていた。
「いよいよだな」
陸はにやりと笑う。
「お前、昨日みたいに色寄せられんのか?」
拓真は小さく頷き、深呼吸。
初戦の相手は紅波地区代表。赤系統の波は感情変動が激しく、攻撃的なスタイルが多い。
対峙するのは、長身で鋭い輪郭の男・篝(かがり)と、赤茶の髪をポニーテールにした少女・真琴。
二人とも鮮やかな赤波をまとい、熱を帯びた空気を周囲に広げていた。
開始の合図と同時に、篝の赤波が前線を押し上げる。
拓真は翠川との練習を思い出し、橙波を一瞬で緑寄りへ落とす。
緊張を抑え、呼吸と心拍を一定に保つ——だが赤波は容赦なく迫る。
その瞬間、背後から陸が前へ躍り出た。
絶香者の彼の存在が、篝の波感知を一瞬狂わせる。
「今だ!」
拓真は緑から橙、そして赤寄りへと一気に波を変化させた。
その干渉で篝の波が崩れ、真琴の防御もわずかに遅れる。
拓真はすかさず波障壁に手を触れ、最大出力を叩き込む。
赤と橙が弾け合い、壁が光の粒となって消えた——。
会場から歓声が上がる。
実況の声が響く。
「黄波地区、開幕戦勝利!」
息を切らせながら、拓真は陸と拳を合わせた。
「……できたな」
「まだまだだ。次はもっと派手に行こうぜ」
観客席の香波が、喜びと期待の色で揺れていた。
拓真はその渦の中で、自分の波が確かに強くなっているのを感じた。