テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
浜辺でひたすら待機していた深澤。しばらくすると岩陰から向井を抱えた目黒が戻ってきた。
向井は目黒の胸に顔を埋め大人しく姫抱きにされており明らかにうまくいったことが分かった。
💜「おぉ!康二~久しぶり!」
人魚を初めて見る上に後輩が見たこともない姿になっている状況が深澤にとっては非常に新鮮だった。
それでもなんでもないといった顔で向井に呼びかける。不安にさせない為だ。
🧡「ふっかさん…」
💜「無事でよかったよ~めめとあべちゃんとラウに感謝しな~笑」
🖤「ふっかさんも色々やってくれたでしょ」
💜「俺なんもしてないもん笑」
素直に感謝されると小恥ずかしいからついおちゃらけてしまう癖があるのは昔からだ。しかし、純粋な向井にはそれが通じない時がある。
向井はまだ潤んだ瞳のままで深澤を見つめ
🧡「ふっかさんありがとう」
と礼を言った。深澤は少し照れながら頭をかいて話題を変えた。
💜「はいはい見つかっちゃ危ないんだから車乗るよ!康二はとりあえず後部座席にいて。めめ手伝って」
🖤「はい」
乗ってきたワゴンのトランクを開け空っぽの水槽を下す。
💜「海水入れるよ~」
目黒は向井を車に乗せ深澤と水槽を海辺まで運ぶ。
ふと気になることがあった。
🖤「ねぇふっかさん。あべちゃんは?」
💜「あ~…どっかの可愛い人魚でも口説いてんじゃないかな」
────────
遡ること10分前。
目黒と向井が再開を果たしキスを交わすところを別の岩陰から見守る影があった。
佐久間だ。
もし向井へのメッセージが罠だった時に助けられるようにこっそりついてきていた。
しかし目にしたのは、2つの恋心が報われる瞬間だった。
めめとやらという男の瞳に宿る情愛が嘘には見えなかった。
自分が現実には存在しないと信じて疑わなかった愛がそこにあったのだ。
同時に、波のように押し寄せてきたのは胸を焼くような孤独感。
結局、愛されていなかったのは自分だけだった。 自分にはあんなに泣きながら迎え入れてくれる者などいない。
これでまた1人になる。
🩷(別に。1人には慣れてるし。友達のイルカたちもいるし)
佐久間はそのまま1人海に帰ろうとした。しかし不意に背後から声をかけられた。
💚「あの2人の絆は本物だよ」
🩷「っ⁉」
勢いよく振り向くとそこには若い男性が微笑んで立っていた。
🩷(やばい…!)
逃げようとした瞬間男性は慌てて佐久間を引き留める。
💚「待ってごめん!脅かすつもりなかったんだ。逃げないで」
🩷「俺に近づくな!」
💚「…分かった。近づかない。ただ話を聞いてほしいんだ」
そのまま逃げればいいものを、まっすぐ見つめて来る男性からなぜか視線を外せずに動かないでいた。
💚「君…もしかして佐久間くん?」
🩷「なっ、なんで俺の名前知って…⁉」
💚「俺の仲間が探偵やっててね。気になる情報を見つけたんだ。ある科学研究所が大企業を経営している夫妻から人魚を買い取り、搬送中の事故で逃がした。その人魚が佐久間って名前だった」
🩷「……お前も俺を狙ってるのか」
💚「違うよ。その逆だ。俺は君を助けたい」
🩷「お前に何ができるってんだ」
💚「自己紹介が遅れたね。俺は阿部亮平って言います。康二の知り合いで科学者をやってる」
💚「そしてネオ・ジェネシス生命科学研究所の元研究員だ」
『ネオ・ジェネシス生命科学研究所』
略してNGL
佐久間は背筋が凍った。
かつて自分を1億で買取り逃げ出した今も尚自分の行方を追い続けている組織。
🩷「NGL…!?やっぱりアイツらの仲間なんじゃないか!!俺をどうするつもりだ!」
💚「元だって言ってるでしょ。随分前に辞めたよ」
💚「あの組織の『結果のためなら命の犠牲も厭わない』というやり方に嫌気が刺してね。……あそこは命の重さを何とも思っていない」
💚「俺は1人でも多くの奇病で悩む人を救うために…命を救うために自分の研究所を立ち上げたんだよ」
💚「よければ……俺の研究所に来ない?」
🩷「な…っ!?」
💚「アイツらの残虐性はよく知ってる。捕まれば今度こそ命がどうなるか分からない。見つからないように君を保護したいんだ」
🩷「嘘だ……嘘だ!!どうせまたどっかに売り飛ばすんだろ……!?人間なんてみんな金と自分のことしか考えないくせに!!」
💚「今まで辛かったよね」
🩷「……え」
💚「傷ついて行き場を失った君を……野放しの密猟者や、NGLの危険に晒したくないんだ。俺の研究所なら、君の安全と尊厳を保障する」
🩷「…ありえない。……俺は信じない……!」
💚「嘘じゃない。君を救いたいんだ」
🩷「嫌だ…来るな!!お前に何がわかる!!」
佐久間の叫び声が響き渡る。腕や尾鰭を必死に振り回し、水しぶきをあげ阿部を拒絶する。
🩷「両親ですら俺を売ったんだ!愛だの絆だの…あるわけない!! 人間なんか……っ、お前らなんか全員大嫌いだ! 触るな……ッ!」
必死に威嚇し、怒りをぶつける。その言葉の端々は震えていた。
気づけば、佐久間の瞳からボロボロと大粒の涙が溢れていた。
阿部は佐久間が大泣きしても動じず、ゆっくりと歩み寄ってきた。
🩷「うぅ……来るなっ……来るな!」
💚「ずっと1人で……寂しかったよね」
その言葉が佐久間の胸を鋭く突いた。
ずっと避けてきた言葉だった。
口にしたら負けだと思っていた。
寂しかったのだ。
悔しくて、悲しくて、たまらなかったのだ。
誰にも愛されず、親の言いなりになって生きて。
最後には見捨てられ、見知らぬ大人たちの汚い私欲のために追い回されて。
ずっと、ずっと誰かに愛して欲しかった。誰かに寄り添ってほしかった。
でも今日までの人生で、そんな人間は1人としていなかった。
「助けて」なんて言えなかった。
向井が誰かに探し求められ、片思いまで成就しているのを見て羨ましいと思ってしまった。
子供のように泣きじゃくる佐久間を阿部はゆっくり抱きしめた。
震える背中をさすりながら優しく言った。
💚「もうこんなに広い海の中で1人でいなくていいんだよ」
誰かに抱きしめられた記憶などない。頭を撫でられたこともない。胸の奥がじんわりと熱くなる。
初めて抱きしめられて知った。
人の腕の中は温かいことを。
🩷「ゔぁ…ぐすんっ…人間なんて……人間なんて……! 」
💚「信じられないのも無理はない。でも…俺は君を裏切らない」
阿部は腕を解き、佐久間を肩を掴んだまま真っ直ぐ見つめて言った。
💚「もし…俺に裏切られたと思った時は…俺を殺してもらって構わない」
🩷「……えっ!?」
佐久間はあまりに代償の大きい提案に、涙で霞んだ目を見開いた。しかし阿部の表情はいたって真剣だった。
💚「大丈夫。俺を信じて」
その目で見つめられて、初めての言葉を掛けられて。つい……縋りたくなった。
佐久間は震える唇を噛み締め、涙溢れるまま絞り出すように答えた。
🩷「……裏切ったら……ホントに殺すよ……っ!殺すからね……!!」
それは絶対に許さないと誓った人間という存在に対するなけなしの信頼だった。
阿部は優しく微笑んだ。
💚「構わないよ。……研究所まで送るよ。さあ、おいで 」
佐久間は嗚咽をもらしながら阿部に身体を預けた。
阿部は佐久間を抱え上げ、みんなの待つ浜辺まで戻って行った。
🧡「あっ!……さっくん!あべちゃん!!」
💚「康二久しぶりだね。もう大丈夫だよ。佐久間くんも一緒に連れていくから」
🧡「ホンマに……ありがとうあべちゃん」
💚「いいんだよ笑 無事でよかった。誰かに見つかる前に戻ろう」
💜「あべちゃん水槽どうする?」
💚「あ、そっか」
佐久間を連れて戻ってきた阿部。計画では向井1人を運ぶ予定だった為に水槽が1つだけだった。
🖤「康二が俺の膝に座れば良くない?」
🧡「うぇ!?」
🖤「嫌?」
🩷「でも…俺が余計な追加要員なんだ。水槽は康二が使って」
🖤「ごめん、俺が康二と一緒にいたくてさ。ねぇ康二お願い 」
🧡「…俺もめめの近くがええかな」
🖤「よしっっ」
💜「ハイハイ笑じゃあ佐久間?って呼べばいいのかな?狭くてごめんだけと水槽に入ってね〜。あと、自分のこと『余計』なんて言っちゃダメだよ」
🩷「あっ……うん。ありがとう…」
💜「そんな緊張しないでよ笑 調べたんだけど、俺ら同い年らしいからさ。気軽にしてよ」
🩷「わかった…ありがとう」
💚「みんな乗ったね?戻ろっか。めめは康二を絶対に離さないでね」
🖤「もちろん。死んでも離さない」
💜「は〜いみなさん車動きますよ〜しゅっぱーつ!」
💚「運転するの俺だよ」
全員を乗せたワゴンは夜中の道を走り、ひっそりと阿部の研究所へと向かって行った。
𓏸 𓈒 𓂃 鱗に恋心. END𓂃 𓈒𓏸
.*·.⟡┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⟡.·*.
あとがき
読まなくても️⭕️
前回が「恋心に鱗」で今回が「鱗に恋心」でした。
「恋心に鱗」はラストエピソードにもあったように、向井さんのことを表すタイトルでした。
「鱗に恋心」は目黒さんから向井さんへあてる恋心の話メインだったのでこのタイトルになってます。
2人の恋が成就した以上、このタイトルで話を続けるのも違和感あるので「鱗に恋心」はここで終わりです。
近々新しいタイトルで続編を出しますのでよろしければそちらも読んでいただけたら大変嬉しいです。
あとこちらのタイトル(鱗に恋心)ではおまけでもう1話サブストーリーを出す予定です。
度々チラつかせてた目黒さんが向井さんを好きになったキッカケの話です。
長々とすみませんがもう1話だけお付き合い下さい…♡
めかぶぷりん
1,978
#あべさく
うめぼし
4,479
コメント
7件
「鱗に恋心」完結おめでとうございます🎉 個人的な話になるのですが、私あべさく担でして……まさか最終話に2人の絡みを見れると思わなくて感動しました😭続編もあるだなんて…!最高すぎます✨ 素敵なお話をありがとうございました! これからも透子さんの投稿を楽しみにしています💞

もうほんとに最高です!!💕「鱗に恋心」完結おめでとうございます!!次回の続編もほんとに楽しみにしています!!💕お身体に気おつけて無理のないように素敵な作品を生み出していただければと思います!!✨️💕
はぁ🤦🏻♀️💘最高すぎて溶けそうです🫠ᩚ もういくらでもお付き合いしますぅぅぅ❣️ もう続編もアフターストーリーも楽しみすぎます🫶🏻 このお話まじて大好きです🫰💖✨💞