テラーノベル
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それから2年の月日が経った。
実家の片付けをしていたすみれが夫の隆志に聞いた。
「あれー? こんなところに貝殻なんて飾ってあったっけ?」
「貝殻? どんなのだ?」
隆志がリビングへ来て妻のすみれが指差している方を見る。
「お義母さんが拾って飾ったんじゃないか? 毎朝散歩をしていたからね」
「ああそっか。でもさ、なんかこれ2つ並んでいてまるでお父さんとお母さんみたいだね」
「本当だ。なんか捨てるのも悲しいから持って帰ってうちの棚に飾ろうか?」
思い遣り溢れる夫の言葉にすみれは感激する。そして隆志に抱きついた。
「隆志優しいから大好きっ」
隆志は自分の身体に腕を回す妻の腕を優しくポンポンと叩いた。
「だってさ、いよいよこの家も売ってなくなっちゃうんだろう? だったらお父さん達の思い出は少しでも多く残しておきたくないか?」
「うん、そうだね…ありがとう。じゃあこの貝殻は家に持って帰る」
そのとき「ただいまー」という元気な声が響いた。
海へ遊びに行っていた息子の隆之が帰って来たようだ。
「ねぇ僕これ拾ったよ!」
「なんだ? 隆之、何を拾ったんだ?」
隆志は隆之が手にしている物を見る。
すると小さな手の上にはリビングボードにある貝殻と同じ貝殻が乗っていた。
隆之が持って帰った貝殻はサイズが一番小さい。
それを見たすみれは思わず声を出して泣き始めた。
「うぅっ……お父さん…なんであんな急に逝ってしまったの……」
号泣する妻のすみれを隆志がギュッと抱き締めた。
「うん…辛いよな…辛かったろう……あまりにも突然だったもんな……でもお前には俺がいるから安心しろ」
隆志は優しく言うと更に妻をギュッと抱き締めた。
その時息子の隆之が父親の袖を引っ張って心配そうに聞いた。
「お母さんどうしたの? 大丈夫?」
まだ8歳の隆之は不安気に父の目を見る。
すると隆志はニッコリと頷いた。
「大丈夫だ。お母さんは急におじいちゃんがいなくなって淋しくなっちゃったんだな」
父親の言葉を聞いた隆之はコクンと頷くと少しホッとしたようだ。
そして目の前のリビングボードにある2つの貝殻に気付くと叫んだ。
「あっ、僕のと同じ貝殻だ! 僕のと合わせて3つだね。一番大きいのがお父さんで2番目がお母さん! で今日僕が拾って来たのが僕なんだ!」
隆之は誇らしげに言うと拾って来た貝殻を2つ間貝殻の横に並べた。
息子の言葉を聞いたすみれは手で涙を拭きながら顔を上げる。すると棚の上には3つの貝殻が寄り添うように並んでいた。
そこで再び息子の隆之が言った。
「そういえばね、今日は満月なんだって! 海で知らないおじちゃんが教えてくれたよ」
この世とあの世の境目が
曖昧になる満月の夜は
不思議な出来事に遭遇する
満月の夜は 逢いたい人に逢える夜
【追憶】<了>
コメント
11件
満月に会いたい人に会えるの良いなぁ🥹何回か読んでますがいつもウルッときますね。瑠璃マリ先生、ありがとうございます✨
また泣きながら😭😭さ最後まだ読ませた頂きました😭
満月の日の 奇跡の出逢い✨🌕️🌊✨ まさに 晩秋の今の時期にピッタリですね....🎑 家族の愛が溢れていて、切ないけれど素敵なお話 ありがとうございました💖✨