――学校に着き
私は、拓海の方をチラッと見てみる。
彼の髪は 寒風になびいていて、見るだけでおっとりしてしまう。
……なんで私、幼馴染に恋してしまったんだろうか。
どこを好きになったんだろうか。
こういう、冷たいくせに優しさをたまに見せてくる所か。
そんな自問自答を繰り返して、私は教室前の廊下をただ歩いた。
同じクラスの拓海も、言葉無しに歩いている。
小さい頃は何も感じなかった隣同士も、今となっては心臓に悪いくらいドキドキする。
恋って、ある意味ストレスも溜まるのかも。
そして距離が近いと、私は更に緊張してしまう。
昔は手も繋いだりしていたのに、こんなに本気で好きになってしまうなんて―――。
拓海が好きになってくれる訳無いのに。
木材の廊下を歩く足音は、静かに耳に聞こえてくる。
流石に気まずくなったのか、拓海が話しかけてきた。
「今日、暇?」
「え?」
「だから、今日の放課後暇かって」
「うん」
「じゃ、放課後公園な」
「ん?なんで?」
「なんでも良いだろ」
「は?」
「まぁそんな気にすんなよ…」
「??」
「じゃっ。」
そう言い、拓海は教室にいち早く向かった。
拓海の言葉は、謎めていた。
――そこで、私は思い出す。
「今日暇?」と聞いてくる男性の心理。
私のこと、好き…… なの?
そんな、馬鹿な……。
私のことを恋愛対象にしてないだろうから、ただ予定を聞いてきただけ。
ただ、それだけ―――。
私はそう捉えるしか無かった。
「…(なんであんな奴、好きになったんだろ…?)」
俺は、絵麗奈が好き。
恋愛的に、好き。
絵麗奈は幼馴染で、俺は恋なんて一生しないと思っていた。
でも、まさか好きになったのが――
あの絵麗奈だなんて……。
「好き」
たったこの2文字なのに、伝えられない。
俺がアイツの事を好きと、信じられないから。
――確か俺が絵麗奈を好きだと自覚したのは、今年の春だった。
花が芽生始める頃、俺の恋も芽生えた。
それは、絵麗奈の一言からだった。
「拓海って、冷たいけど優しいとこあるよね」
「なんか、そういう人タイプかも」
「!(なんでだ… なんかドキドキする…。)」
「(タイプって言われただけじゃないか。決して俺じゃあるまいし。)」
もしや……
これって……
“恋”…?
そう気付いてからは、どうしても絵麗奈が忘れられなくなって…
いつの間にか どんどん恋の沼にハマっていた。
でも直接伝えるのは恥ずかしくて、婉曲に愛を伝えていたつもりだった。
実際全然伝わっていないのは自覚している。
…絵麗奈も、俺のこと好きなら良いのに。
そんな虚しい期待を胸に、俺は寂しい青春を独りで突っ走っていた。
そして今日。
俺はとうとう、公園まで連れ出すことに成功した。
今日は絶対、好きって伝えてみせる…!!
俺は、ベンチに腰かけた。
その隣にくっつくように、絵麗奈が座った。
俺の手には、あらかじめ買っておいたキンキンのジュース。
無言で絵麗奈に手渡すと、少し驚いた顔をした。
でも、喉が乾いていたのかすぐに飲み干していた。
そしてやっと、初めの一言を発した。
「なんで、今日だけは優しいわけ?」
「は…?」
「なんか、妙に気が利くような気がして…」
「――俺の気分」
「そっか」
「おう…。」
「(このままじゃ、恋愛の話に持ってけそうにない___。)」
どうしたら良いんだ?
恋愛不慣れの俺は、すでに手の付けられない状態。
そこで絵麗奈が、意図的に恋愛の話をし始めた。
これが不幸中の幸い、というものか。
「私、失恋ばっかだよ笑」
「…急にどした?」
「なんか、虚しいなぁって笑」
「…」
「慰めて」
「え」
「誰でも良いから、慰めて欲しくて…っ」
「…(慰めるって、どうやって…!?)」
俺は、言葉では慰める事が出来そうになくて。
行動で表すしかなかった。
「! そういう事?笑」
「ちがう…?」
「良いよ、全然」
「…なんかごめん」
「ううん、嬉しいから」
「―――ちょっとは落ち着いた?」
「うん」
俺が肩をさり気に抱き寄せて慰めたのは、間違いでは無かったらしい。
とりあえず、落ち着いてくれて良かった。
昔からの幼馴染だからこそ、絵麗奈が精神不安定なのはよく分かっている。
「…なんか今回は、桜も散らない気がするよ」
「まだ、私にとっては春だから」
「いつまでも冬にならない気がしてさ」
「ありがとう」
絵麗奈は謎の言葉を残して、一人物思いにふけっていた。
何を考えているのかは分からないが、空を一直線に見つめているその横顔は、俺を更に惚れさせたのであった。
「(もう、好きにさせないでくれよ…っ)」
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