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「ぎ……ぎづい……」
放課後の練習中、僕は珍しく弱音を吐きながら外に設置してある水飲み場へ。水を飲むためではない。言葉のそのまま意味で吐きに行ったのだ。
「オロロロロ!!!!」
胃の中にある全てを吐き出した僕である。まあ、僕だけじゃないけどね。トイレに行った奴も、体育館から外に出て隅っこへ行った奴も、今頃僕と同じ状態であり状況だろう。
もう慣れたけど。日常茶飯だから。
「くそー、夏場の体育館なんかで一時間もダッシュさせるなっていうの」
胃の中のものを全て吐き出したところで愚痴りまくった。いくら15秒のインターバルを取りながらといっても、こんな真夏に一時間も全力でダッシュさせるなっていうの。僕は脚力には自信はある。誰にも負ける気がしないし、実際負けたことがない。が、悲しいかな、体力には全くと言っていい程自信がないんだ。
「あー、もう! とりあえず――」
僕は蛇口を思い切り捻り、勢いよく吹き出した水を頭から被る。短髪ではないが夏場だからすぐに乾くし、今の内に少しでも冷やしておかないと、熱中症で倒れる可能性も十二分にあるからだ。自己管理って大切だよね。
「ふぅー。キツいけど、でも、これはこれでなかなかいいんだよねえ。あー、ちょっと気持ち良くなってきた。よし! もっと苦しもう!」
マゾヒストかよ、という声が聞こえてきそうだが、実際にそうなんだから仕方がない。人は限界を迎えれば、それはチャンスに変わる。それを感じ、なお自分を痛め続けることで、体力は勝手にどんどんついてくる。
バスケに限らず、だ。
たぶん。
「あ、あの……大丈夫?」
「ありがと、大丈夫だよ。さすがに慣れたちゃった。それに、どこの学校も同じようなものらしいしね」
「そ、そうなんだね。私、マネージャーになるまで運動部のことなんか全然知らなくて。だから最初、ビックリしちゃった。はい、これ。ポカリ」
「助かるよ。き――ううん、光星さん」
僕にスポーツドリンクの入ったボトルを手渡してくれたのは、マネージャーの光星さんだ。同い年だし、選手とマネージャーということで距離感も近いから、本当は親しみを込めて下の名前で呼びたいところだけど、しかし、光星さん的には苗字で呼んでほしいらしい。
理由は、いわゆる『きらきらネーム』というやつだから。
光星さんの下の名前はどんなものかというと、姫星《きてぃ》である。まるでサン◯オだもんなあ。そりゃ、あんまり呼ばれたくないよね。名付け親であろう親子さんには失礼だけど。
「こ、こんな時にごめんね大輔くん。あの、あの……ちょっとお話ししたいことがあって……」
はて? どうしたんだろ光星さん?
彼女はロングヘアーをゴムでまとめていて、知らない人から小学生と間違われる程の童顔で、背も小さい。性格もやたらと女の子女の子してるのは知ってるけど、今日はよりいっそう女っぽく見えるし、そしてやけに落ち着きがない。それに頬も紅色に染まっている。
「じ、実は……」
うん、ついに手遊びを始めながらモジモジとし始めてしまった。少し俯き加減で。なとなーく察した。これから光星さんが何を言おうとしているのかが。
「じ、実は!! す、す……すすす、好きなんです! お付き合いしたいんです!!」
やっぱりそういう話かあ。ちなみに。別に僕がすぐに状況を察することができる程、女慣れをしているわけではない。けど、明里と長く一緒にいる上、あの積極性で毎日のようにアプローチされ続けてきたからなんとなく分かるようになってしま――
「あれ? 明里?」
草むらの陰から人が走り出すのが見えたんだけど、明里だよな? どうやら木の影に隠れながら聞き耳を立てていたらしい。
こりゃ面倒くさいことになるぞ……。
「あ、あの……迷惑だったら断ってもらっていいからね」
「分かった。でも、迷惑なんかじゃないよ。いくらでも話を聞くからさ。それで、ちなみに――」
* * *
「やっと見つけた……」
「クソッ! クソッ! 私の話はいっつも適当に聞き流すのに、なんで他の女子には優しく接するのかな! 大輔めー! 許さない。絶ーっ対に許さない! あーもう!! さすがに腹が立ってきた!」
と、そんなことをぶつぶつと独り言――ではないよね、ここまでくると。大声を上げてるんだもん。
まあ、そんなことを口にしながら林の地面に埋まっている雑草をぶちぶちと引っこ抜いていた。恐らくストレス解消のために。まあ、憶測だけど。
に、しても……この周辺だけ、やたらと雑草が少ないんですけど。すごくスッキリしてるんですけど。
もしかして明里のやつ、嫌なことがあるたびにここに来てはブチブチと草を引き抜いてたのかな?
だとしたら、なんか怖いんですが……。
それに言いたい。お前は庭師かよ、と。
「ねえ明里? どうしたの?」
「ああん!!?」
え!? 何? なんでそんなに睨んでくるの? 鬼の形相をしてるの? それに、『ああん!?』とか言ってブチ切れてるの?
と、そんなことを思っていたら。
「グエェッ!!」
形相をそのままに明里が近付いてきたと思ったら、いきなり蹴りを僕の腹部に決めてきやがった。な……何故?
「あ、明里……どうして僕に蹴りを……。そもそも、蹴られる理由が分からないんだけど……」
「分からない? じゃあ分からせてあげようか? 別の技を使って」
「お前……な、何か勘違いしてるから……。とりあえず話を聞いて……」
「知らない!! 聞きたくもない!! 毎日毎日、私が積極的にアプローチしてるっていうのに。なのに、光星ちゃんに告白されてデレデレしてさ。鼻の下を伸ばしながら!」
「いや、それが勘違いだっていうの。鼻の下も伸ばしてないし」
「はあ!? 勘違い!? 確かに聞いたもん! 大輔のことが好きだって! お付き合いしたいって! 確かに言ってたもん!」
「……一部、記憶を改変しないでくれるかな?」
「は!? どういう意味よ!!」
「大好きなんだって。付き合いたいんだって。恋人になりたいんだって」
「ほら! 私が言ったままのことじゃん!」
「そうかもね。大木とだけどね」
「……え?」
【続く】
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#ハッピーエンド
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