テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ハッピーエンド
770
「……え?」
明里はぽかーんと口を開けたまま、目を丸くしたまま、ボケーッと黙り込んでしまった。
でも、やっぱり誤解してたなこれは。明里のストレス発散方法を知れたのはちょっと嬉しいけど。しかし、まさか雑草を抜きまくっていたとはね。
「おーい、明里さーん。ちゃんと話聞いてますかー」
「――はっ!」
明里の側まで行って耳元で少し大きめに呼びかけたところ、やっとこちらの世界に帰ってきたみたいだ。
「た、ただいま……」
「うん。おかえりなさい」
しっかしシュールな絵面だなあ、これ。林の中で引き抜いた雑草を両手に持つ女子高生とか。
夜にこの明里の様子を見たらこんなふうになるんだろうなあ。
『お分かりいただけただろうか? とある林の中で、夜な夜な草をむしり取る女の姿が――』
みたいな。
「えっと、あの……なんだっけ? 確か大輔が姫星ちゃんから告白された……までは覚えてるんだけど」
「下の名前で呼ぶのはやめてさしあげろ。本人は嫌がってるんだから。で、話は戻るけど、あるわけないでしょ? 僕がモテるわけもないし告白されるわけもないって、明里が一番知ってるじゃん?」
「う、うん、知ってる。大輔がモテないのも、カッコよくないのも、女子の一部から変態って思われてることも」
「ちょっと待って! いや、すごく待って! 今最後に言ったのは何!? 初耳だし、そもそも僕、変態だとか思われるようなことをした覚えが全くないんだけど!?」
「あ、それは気にしないで大丈夫。私が勝手に流した噂だから」
あっけらかんと言ってのけてるけど、何なのさそれは……。あー、頭が痛くなってきた。一体、どんな噂を流したのだろう。怖いけど訊いてみよう。
「で、どんな噂を流したわけ?」
「うん。私の等身大のポスターを部屋中に張りまくって、それを舐めまくって、さらに、私がプリントされた抱き枕をヨダレを垂らしながら抱き締めて毎晩寝てるみたいだよって。そんな変態なんだよって」
「それはお前だろー!!」
あー、もう! 訊かなきゃよかった! 頭痛がしてきたじゃん!
* * *
――翌日の昼休み
「ど、どうしたんだよ宮部!」
「まあまあ。いいから着いてきて。体育倉庫まで一緒に」
「た、体育倉庫って、もしかしてお前、俺のことを襲うつもりじゃ……」
ものすごく。もんのすごーく言い返したい。「お前じゃないんだからそんなことするか!」と。
けど、やめておいた。もしも言い返して着いてきてくれなくなったら、先に待機しておいてもらっている『あの人』に申し訳が立たないから。
「なあ大木? まさかと思うけど、今日もスッポンドリンクを飲んできてたりはしないよね?」
それを聞いた大木は顔を真っ青に。
「や、やっぱりお前、これから俺にあんなことやこんなことをするつも――」
「するかっつーの! この前のことがあるから心配してるの! 僕は!」
はあ……結局言い返してしまった。まあ、このくらいなら別段問題はないだろう。
僕のことをどういう人間だと思っているのか、それは後で絶対に問い詰めるけどね!
* * *
「おーい、大輔ー! コッチだよー!」
校舎の裏手から少し離れた体育倉庫前で、明里がコチラに向かって飛び跳ねながら手を振っていた。
遠目から見ても、やっぱり明里の笑顔は陽だまりのように温かくて眩しく目に映る。ずっと見ていたくなるし、ずっと横にいてほしい。そして、その笑顔を僕に向け続けていてほしい。
ずっと。ずっと。
「よ、嫁……」
チラッと大木を見ると細かく足が震えていた。完全に明里に対して苦手意識を持っちゃってるな。
まあ、大木が悪いんだけどね。九割方は。残りの一割は何なのかと言えば、明里が大木に対して日課のように毎日毎日蹴りを入れてるからだと思う。
……いや、それならもしかして逆なのかも。明里の方が九割を占めている気がしてきた。アイツ、絶対にサディストだし。
「も、もしかして俺をあそこに閉じ込めて折檻を……」
「しないしない。いいから行こう」
あー、やっぱり。大木は明里のことを完全に恐怖の対象として見るようになっているみたいだ。
ちょっと腹立たしいな。
「明里ー! 大木を連れてきたよー」
「うん、ありがとう大輔。というわけで大木くん? ちょっとそこに立っててもらえるかな?」
明里はガラガラと、すっかり錆びつき始めている体育倉庫の扉を開いた。
そして――
「こ、ここでいいのか?」
「うん、そこでいいよー。それじゃ大木くん。行ってらっしゃーい! うりゃあああー!!!」
「痛ぇーー!!」
いつもよりもずっと破壊力のありそうな鋭い蹴りを大木のお尻に向かって繰り出した明里だった。
その勢いで、大木は体育倉庫に向かって吹っ飛ばされてしまった。
……何このスタートは。
「あー、スッキリしたしたあ。いやあー、雑草引っこ抜くよりやっぱりコレだよねえ」
「大木のことをストレス解消グッズみたいに扱うなよ……」
【続く】
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!