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夕刻になったので僕は屋敷の離れまで戻って来た。足元に一旦荷物を置いて襖をそっと開けて部屋の中を覗いたが、紅焔はまだぐっすりと眠ったままだ。起きた気配はまるで無く、今日はもうこのまま傍に居ても意味は無いかもしれない。……だけど、彼の顔を見ていると、寝姿だろうが隣に寄り添っていたくなるのは何でだろうか?
「……好き、なのかなぁ」
ケイジュノミコトが言っていた言葉を思い出し、本人の前でそう口にすると、カッと顔が真っ赤に染まった。心臓がバクバクと激しく鼓動し、『あぁその通りだ。まさか、己の事なのに今更気が付いたのか?』と言われているみたいな気がしてくる。
ギュッと着物の胸元を掴みながら室内に入り、紅焔のすぐ隣に座った。
「可愛いよなぁ、やっぱり」
大きな札がぺたりと貼ってあろうが、彼の顔を見るだけでニヤけてしまう。額の小さな角にそっと触れて撫でるとピクッと少しだけ体が動いたが、起きたりまではしないようだ。
「確か……人間とかって、食事をして栄養を摂ったら大きくなるんだよな」
もらった蜂蜜の存在を思い出し、『いい事思い付いた!』とばかりにパッと顔色が良くなる。急いで縁側に行き、貰った籠の中から蜂蜜を取り出すと、すぐにまた紅焔の元に戻った。
「今日はねケイジュ様から蜂蜜をもらったんだよ。起きたら一緒にと思っていたんだけど、栄養価が高そうだから、ちょっとだけこのまま舐めさせてあげるね」
持ち歩いている手拭いで指先を拭いて、蓋を開けて瓶の中身を掬い取る。そして紅焔の口元にそれを近づけると、蜂蜜付きの指でそっと唇を撫でてみた。
ねっとりとした感触と柔らかな唇の肌触りとで心臓がドキドキと高鳴っていく。彼の体温で温まった蜂蜜は、何だかちょっと甘さが増した様な匂いになっている気がする。
「もっとあげるね、紅焔」
口を軽く開けさせ、口内に少しずつ蜂蜜を垂らしていく。ただそれだけの事なのに、何だかイケナイことをしているみたいな気持ちになるのは何でだろうか?
「あ、ごめん」
手元がずれてしまったせいで口の中に入れてあげられず、頬や顎近くに少し垂れてしまった。そんな様子を見て、自分の口内に溢れ出ている唾をごくりと飲み込む。
「えっと……あの、布団が汚れたら嫌、だよね。今、き、綺麗に……してあげるよ」
眠っている紅焔に対して言い訳みたいな事を言って、瓶を少し離れた位置に置く。そしてゆっくり彼の顔に近づくと、僕は震えながら舌を出して、ペロッと紅焔の肌に付けてしまった蜂蜜を舐め取った。
「あ、美味しい」
和菓子とはまた違う甘さがある蜂蜜の味がほんのりと体に染み込んでいく。コレならばきっと紅焔の体にも良さそうだ。一緒にと思っていたけど、全部あげてもいいかもしれない。だけど——
「まだちょっと……口の端についているね。これも、綺麗に、してあげないと」
彼の眠る布団に両手を置き、四つん這いになるみたいにして紅焔の肌に残る蜂蜜を舐め取る。ぺろぺろと舐め続け、もう何も残っていないのに、それでもやめられない。甘かった蜂蜜の味がすっかり消えても、紅焔自身の肌の味が美味しくって堪らず、ひたすら舐め続けてしまう。もっともっとと貪り、自分の舌が紅焔の肌を這うたびに体が震え、ゾクッとした感覚が心地いい。下腹部はヤケに熱を持ち、今まで一度も感じた事の無い感覚が一箇所に集まっていく気がする。
「そうだ、口移しで飲ませてあげたら溢さずに飲ませてあげられるんじゃないかな」
はあはあと乱れた呼吸で呟き、蜂蜜の瓶を口に付けて軽く口に含む。そして僕は、眠る紅焔の唇に自分の唇を重ね、口を開けて、少しづつ口内へ蜂蜜を流し入れてやった。
「美味しい?紅焔。美味しいよね?僕の唾液が混じっているけど、かえって甘過ぎなくって丁度良かったり、しないかな」
返事は無い。 ここまでしても起きない程眠りが深いのだと思うと、段々行動が大胆になってしまっていく。駄目だと思うのに自制が効かなくなっていき、僕はとうとう彼の口の中に自分の舌を押し込んでしまった。
「んっあ……おいしぃ、やわぃし……こう、んっ、あぁ」
温かくって甘くって蜂蜜と紅焔自身の味とが混じり合って、肌を舐めていた時以上に興奮してくる。頭の中はすっかりと茹で上がり、思考する機能が失われていく気がする。全身が熱く、特に下半身が苦しい。褌の中で自分の魔羅が腫れ上がっている様だが、貪る事に熱中してしまい、状態を確認する事すら惜しく思えた。
「好き、好きだよ、あぁそうだ……僕は、君が好きなんだ」
くちゅくちゅと水音をたてながら何度も何度も口付けをしていく。
襖の薄い和紙越しに入ってくる夕日で橙色に染まる紅焔の寝顔の美しさも相まって、僕の初めての接吻は、何十分にも及ぶ長い行為となってしまった。