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翌日。
酷い罪悪感に支配されながらの目覚めとなってしまった。興奮したせいか目が冴えてしまってあまり眠れてもいない。だが、別段眠らなくても支障は無いので、気まずい気持ちだけが問題となって目の前に立ちはだかっている状態だ。
「……今日は紅焔の顔を見られる気がしないなぁ」
寝起きすぐの状態で、昨日の夕刻の出来事をちょっと思い出しただけで顔も耳も真っ赤になってしまう。ちょっと手まで震えていて、『初恋ってこんな感じなのか』と思うと、益々恥ずかしくなってしまった。
布団の上で上半身だけを起こし、両手で顔を覆う。 こんな状態のままでは父上に挨拶にすら行けない。忙しいかもだし、会えない日もよくあるから気にせずとも支障は無いだろうが、紅焔の方には会えないと寂しく思う。だけど彼にも今日は会いたくない、後ろめたい気持ちが大き過ぎる。
「初の接吻を僕が勝手に奪うとか……しかも舌まで絡めるとか、流石にやり過ぎだよなぁ」
はぁとため息をつき、ゴロンと布団に寝転がる。後悔しつつも、あの感触を思い出すと、また下腹部に熱を感じ不思議に思った。
そういえば昨夜もそうだった。何だかわからないが股間が膨れ、布団の重みでさえもソレに当たると変な気分になってしまって酷く焦った。だけど何となく父に相談する気にもなれず、もぞもぞと体を動かしながら耐え抜いたが、アレは一体何だったんだろうか?
(昨日紅焔に蜂蜜をあげた時にも同じような……いや、もっと酷い状態にまで膨れ上がり、ぐっしょりと褌が汚れてしまっていたな)
「……」
そっと手を寝衣の下の方へ伸ばし、軽く捲って褌越しに摩羅に触れてみる。するとやっぱり昨日みたいに少し腫れていて、どうしたものかと頭を悩ませた。
トントンッ。
不意に聞こえた襖を叩く音で、ビクッと体が跳ねた。ダラッと嫌な汗が額と背中を伝い落ち、悪事がバレた時の様な焦りで心臓が早鐘を打っている。
「は、はい!」
頼むから今は開けないでくれ!
布団の中に居るので何をしていたのかすぐに気付かれてしまう心配は無いだろうが、それでも焦る気持ちが落ち着かない。
『竜斗様、紅焔様がお越しですがお通ししてもよろしいですか?』
(……は?)
頭の中が真っ白になった。母屋に紅焔が来た、だと? 此処へ来てまだ数日ではあるが、一度も自分からこちらへは来なかった彼が、どうしたというのだろうか?まさか体調が悪いのか?何か緊急事態だったのならどうしよう?……というか、まさか昨日の件がバレているのでは⁉︎
色々な思考が一気に頭の中を駆け巡り、心配と焦りと戸惑いと、それでいてもしかしたら一番に僕を頼ってくれたのかもしれない喜びとが入り混じった変な状態になり、そのおかげで下腹部の腫れは一気に治った。
「今起きるから、通してもらえるかな」
『承知いたしました』
父の眷属である小狐が、襖越しに一礼して去って行く。
もう後少しで彼が到着するだろう。愛しい人を、こんな寝衣姿のままで迎えるわけにはいかない。というか、布団を敷いたままこの部屋に通す自体駄目じゃないか!
「あぁもう!少し待ってもらえば良かった!」
今更慌ててももう遅い。 優先的にするべきなのは布団の片付けだ。『兄』と慕ってくれているのだ、だらしない姿は見せたくない。
ひとまずはテキトウにたたみ、押し入れの中に文字通り押し込んでおく。後はもう察しのいい付喪神達がこっそり直してくれる事に期待して、次は隣室へ急ぎ、着物を箪笥から引っ張り出した。鏡の前に立ち、帯を解いて寝衣の前を開く。ストンッと足元にそれを落として着物を手に取った辺りで、スッと廊下へ続く襖が開き、朝日を背にした紅焔が部屋に入って来てしまった。
「……あ」
ほぼ真っ裸に近い姿を紅焔の前に朝から曝してしまい、体が硬直する。
「おはよう、竜斗」
だが、こちらを気にするでもなく紅焔は挨拶をしてくれ、彼は後ろ手で襖を閉めた。
「お、おはよう……」
さっきまで自分の布団が敷いてあった箇所に、紅焔が座りあぐらをかく。そんな行為にすらドクンッと心臓が跳ねて、『いや待て、何処に興奮要素があったんだ?』と不思議に思った。
「着替えの最中だったんだ、ごめんね。気にせずに、続けて」
「へ?あ、うん。じゃあ……え、遠慮無く」と答えはしたが、視姦でもされているみたいな気分になってくるのは何故なんだ。
じっとこちらに顔を向けていて、何でこっちを見たままなんだろうと思うも、僕の体に興味があるんだろうかと勝手に受け止めて嬉しくなってしまう。
ドキドキと心臓を高鳴らせ、震える手で着替えの続きをしていく。脱ぐわけじゃ無いんだ、段々と普段の服装になっていくだけなのに、紅焔に見られているんだと思うだけでぞくりと体が震え、呼吸が乱れて魔羅がまた腫れていってしまった。
「お待たせ。ごめんね、変な所を見せてしまって」
何度も深呼吸をして気持ちを落ち着けたが、まだちょっと半勃ち気味な股間がバレないか心配になりながらも、隣室でずっと僕を待っていてくれていた焔の元に行った。
「今日は君の方が起きるのが早くてびっくりしたよ」
「今朝は何だか調子がいいんだ。昨日までの体調と全然違っていて、目が覚めた時に、自身でも驚いたくらいに」
「じゃあやっぱり、蜂蜜が効いたんだ!」
狐耳がピンッと立ち、言わないでいい事をつい言ってしまった。
「蜂蜜?蜂蜜がどうかしたのか?」
「あ、や……」
(どうしよう。勝手に飲ませた事を言わないと、かえって不審に思われそうだ。いやでも、 接吻の事だけは避けておけば問題ないんじゃないか?——よし)
「えっとね、昨日龍神様から蜂蜜をお土産にもらったんだ」
「ほぉ」
「で、でね、紅焔にそれを飲ませてあげたら元気になるかな?と思って、飲ませてみたんだよ」
「……鬼の吾では、拒否反応が出そうなくらいに過剰な加護付きの蜂蜜だな」
「え?あ……わぁ、そう言われてみたらそう、だよね」
サッと一気に顔が青くなり、同時にギュッと股間が縮まった気がした。腫れがまたひいたのはいい事なのだが、よくよく考えるとすごくまずい事をしてしまったのかもしれないと、指摘されて今更気が付く。
「でも、体調は……いいんだよね?」
心配になり、畳に手を付いて下から紅焔の顔を覗き込む。
少しだけ札を捲って顔色を伺ったが、血色も良いし目の下のクマが少し改善されていてやっぱり可愛い。唇は林檎みたいに赤く、少しはみ出る八重歯はとても魅惑的だった。
昨日はこの唇を存分に貪ったのだなと思うと、頭の中が次第にぼぉとしてきてしまった。
「——りゅ、竜斗?」
名前を呼ばれて我に返り、バッと咄嗟に紅焔と距離を取る。あ、危なかった。無意識のまま接吻をしてしまいかねなかったくらいに顔と顔とが近かったなと改めて気が付く。
「ごめん!顔色が気になって、その……間近で見過ぎたね」
「そうだな」
「……嫌、だった?」
「別にそういった事はないよ」と言って、口元が笑ってくれる。目元が札で見えなくても、不思議と紅焔の愛らしい笑顔が想像出来た。
「竜斗からはいい香りがするな。何の香りだろう?」
首を少し傾げる姿までもが心を揺さぶられる。
(あぁもう可愛い!可愛い可愛いっ)
——と、返事も出来ず、もうそれしか考えられない。
「何の香りだろう?香でもつけているのか?」
そう言って、紅焔が僕の首の近くに鼻を近づけて、くんっと体の匂いを吸い込んでくる。
「……あぁ、竜斗自身の香りか」だなんて首元で言ってくるもんだから、思わず押し倒したい衝動に駆られたが何とか堪え抜いた。
「耳がヤケに赤いけど、熱でもあるのか?」
何も考えずに幼い手で僕の狐耳を紅焔が触ってきた。 そのせいでまたまた魔羅が腫れ上がり、着物を着ていてもわかるほどに押し上げてしまっている。褌だけではもう、この腫れを防ぎきれないみたいだ。
(コレ、性衝動ってやつだ!)
腫れる時の条件が条件なので、その事に僕はやっと気が付く事が出来た。『遅過ぎだろ!』とは思うがまだ十二年程度しか生きていないのだ、拙い知識ではその事に思い至るまで時間がかかっても致しかたないだろう。
「大丈夫だよ!あ……でも、あの……」
(何と言えばまた接吻が出来るだろうか)
もう、接吻してしまいたい気持ちで頭の中がいっぱいだ。
「ん?」
「体調ね、もっとよく……して、あげようか」
紅焔との距離がめちゃくちゃ近い。 ドキドキし過ぎて心臓が口から飛び出してしまいそうだ。
「出来るのか?もっと元気になれたら、確かに嬉しいんだが」
くんくんと僕の香りを嗅ぎ続けながら返事をしてくれる。気に入ってくれたのは嬉しいが、このままでは嬉し過ぎて鼓動が止まってしまいそうだ。
「だよね、だよね!元気になったら釣りとか、川遊びとかも出来るしさ、楽しいと思うんだ」
「あぁ、それはいいな」
スリッと頰を髪に擦られて、もう理性が吹っ飛ぶ寸前だ。『 頼むからそんな誘うみたいな行動を無意識にしないで!』と思うけど、嬉しくってたまらない。
「蜂蜜!」
「ん?」
「飲んでみない?……その、き、昨日と同じ……方法で」
間髪入れずに紅焔が「飲む」と頷いてくれる。目の前の着物の隙間から見える鎖骨がちょっと色っぽいなとか考えながら返事を聞き、僕は「じゃあ、蜂蜜持って来るよ」と不自然な程大きな声で言い、紅焔からちょっと離れて立ち上がった。