テラーノベル
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配信画面の同接(同時接続数)は、前回の伝説的な告白配信以降、留まることを知らない。『はいどーもー! うさぴょんだよ〜! 今日はなんと、C小町のデビュー曲レッスン風景……そして「振り付け決定」の瞬間を、リアルタイムで超密着生配信しちゃいまーす!』
カメラの向こうでは、すでに十万人を超えるリスナーが画面に群がっていた。
コメント欄は、冴子が書き下ろしたデビュー曲『変態的(ルビ:キラー)な純愛』のデモ音源が流れると同時に、一気に加熱する。
重低音が響く重厚なエレクトロ・トラップ。美裕の持つ「性別を超えた美しさと葛藤」をテーマにしたその楽曲は、ダークでありながら一度聴いたら耳から離れない強烈な中毒性を孕んでいた。
《うさぴょんチャンネルでレッスン生配信助かる》
《冴子Pの曲、エグすぎだろwww》
《この重い曲にどんなダンスつけるんだ?》
《美裕ちゃんの覚悟、本物だったからダンスも期待》
鏡張りのレッスンスタジオ中央。
腕を組み、鋭い眼光で三人を睨みつけているのは振付師の**坂谷雅矢(28)**だ。普段のフワッとしたお兄さん風の雰囲気は消え、プロの顔になっている。
「いい? 灯、沙也加、美裕ちゃん」
坂谷が音を止め、しずかに口を開いた。
「冴子ちゃんが持ってきたこの曲、普通のアイドルの『可愛いダンス』を踊ったら一瞬で曲に喰われるよ。この曲が求めてるのは、綺麗な人形のダンスじゃない。『自我の崩壊と再構築』……一度自分をぶっ破るくらいの生々しさだ」
そう言うと、坂谷は自らお手本として踊り始めた。
しなやかな身体のラインを極限まで強調したかと思えば、突然関節を無視したような歪なロックダンスへと切り替わる。美しさと不気味さが同居する、息をのむようなパフォーマンス。
「——これが僕の作った振り付けの核。でもね、これをそのまま踊っても面白くない」
坂谷は踊りを止め、美裕に向き合った。
「美裕ちゃん。君のパートのサビ前、ここは君自身に『自分の殻を破る動き』を即興(フリー)で入れてほしい。男だった過去の葛藤、今の自分としての誇り、その狭間で引き裂かれそうな感情を、身体全部で表現してみて」
「えっ……フリーで……!?」
思わず息を呑む沙也加。「公開生配信の場でいきなり即興なんて……!」と焦るが、灯は静かに美裕の表情を見つめていた。
コメント欄もざわつき始める。
《生配信で即興振り付けは草》
《ハードル高すぎだろwww》
《振付師マジスパルタ》
《美裕ちゃん頑張れ……!》
画面の端で腕を組む黒岩Pとマネージャーの康弘。康弘の拳に力が入るのが見えた。
「美裕……」
私は大きく息を吐き出し、鏡に映る自分を見つめた。
前世、ただの観客としてスクリーン越しに『推し』を見ていた自分。
男としての体に違和感を抱きながら絶望していた日々。
そして今、美裕としてこの世界に立ち、本当の自分を魅せようとしている瞬間。
キレイに踊ろうなんて思わなくていい。
前世の無念も、性別の壁も、この泥臭い命の躍動そのものを叩きつければいいんだ。
「坂谷さん……音、かけてください」
「いい顔になったね。行くよ!」
重低音がスタジオに爆音で響き渡る。
灯がカリスマ性溢れる鋭いステップで先陣を切り、沙也加がオタク特有のアイドルの『見せ方』を熟知した完璧な角度でレスを送る。二人とも完璧だ。
そして、サビ直前。曲が一度静弾し、美裕のソロパートへと突入する。
——ドクン、と心臓が跳ねる。
美裕は髪を振り乱し、自らの喉元を締めあげるような仕草から、激しく身体を反らせた。
美しく整えられたアイドルの爪が、まるで過去の自分を切り裂くように空を舞う。
抑圧された感情を吐き出すような、痛々しくも息をのむほど美しい、狂気の即興ダンス。
女の子になりたかった。
アイドルになりたかった。
この世界で、誰よりも輝いて生きていたい——!
最後の決めポーズで、美裕はカメラを射抜くような眼差しで突き刺した。
汗が頬を伝い、荒い息がスタジオに響く。
一瞬の静寂。
「……ッ、最高!!!」
坂谷が叫び、激しく拍手を叩いた。
スタジオの隅で曲を聴いていた冴子が、不敵な笑みを浮かべてノートパソコンのキーを叩く。
「決まり。今ので最後の音の構成変える。美裕の今の息遣い、そのままサビの頭にサンプリングして入れるわ」
「ちょっと冴子ちゃん仕事が早すぎるわよ」と苦笑しつつも、黒岩Pの目には満足気な光が宿っていた。
ふと配信画面に目をやると、チャット欄のスクロールが追いつかないほどの爆速になっていた。
《待ち時間忘れて見入ってた……》
《鳥肌やばい、なんだこれ》
《即興でこの表現力はバケモノだろ》
《可愛いだけじゃない、マジで『異端』のアイドルが生まれる瞬間見た》
《C小町、古参になります》
同接はついに【15万人】を突破。
71
#【推しの子】
#SAKAMOTODAYS
おとうふ 紹介文読んで🙇
141
りな
65
「すごいです美裕ちゃん……! 視聴者の反応、大絶賛ですよ!!」
沙也加が興奮気味にスマホを突き出し、灯も珍しくフッと柔らかく微笑んだ。
「……へぇ。アンタ、口だけじゃなかったんだね。ちょっと見直した」
「みんな……ありがとう」
汗を拭いながら、私は握りこぶしを強く握りしめた。
振り付けは決まった。
楽曲も、覚悟も、すべてが揃った。
あの日、前世の自分が納得いかなかった物語の続き。
ここから私たちが、新しいアイドルの歴史を塗り替えていくんだ。
『C小町デビューライブまで——あと7日』
コメント
1件
わあ〜第3話、一気に読んじゃったよ!!😭💕 美裕ちゃんの即興ダンスのシーン、めっちゃ鳥肌立った…!「キレイに踊ろうと思わなくていい」って自分に言い聞かせるところ、前世の自分と向き合ってる感じが伝わってきて、もう泣きそうになったよ😢✨ コメント欄の盛り上がりとか、地味に沙也加ちゃんの「古参になります」って発言もニヤリとしちゃった〜!笑 デビューまであと7日、次回が待ちきれないよ!キュルノさん、この作品マジで熱い🔥🔥