テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第6話:ルール違反の代償
昼休み。教室のスピーカーから、放送部とは違う、無機質な音声が流れた。
「本日より、校舎内一部区域において《恋レアカード》の使用を禁止とします。該当エリアはアプリ内マップをご確認ください」
その瞬間、教室がざわついた。
「え、マジ?」「どこが使えなくなるの?」「え、私さっき《接近誘導》使ったんだけど……!」
天野ミオは窓際の席で黙って聞いていた。
制服の襟に隠れるようにうつむいたその表情には、戸惑いと、少しの罪悪感があった。
前日、ミオの恋レア使用ログがバズったことがきっかけで、校内の使用状況が再確認され、複数の“過剰使用”が明るみに出た。
特に問題となったのは、ある1年生が《嫉妬演出》を複数回乱用し、特定の生徒に精神的負荷を与えていたこと。
相手は不登校になり、保護者からの通報も入ったという。
「演出のつもりだったんです。あんなことになるなんて……」と泣く加害側の生徒。
けれど、カードは“使う側”の意図だけでなく、“受け取る側”の感情にも作用する。
アプリの記録によると、該当カードは校内で3日間にわたり合計12回使用されていた。
その事件をきっかけに、生徒会と教師陣は「静的ゾーン」の拡大を決定。
教室内(全時間帯)
保健室・図書室
移動教室中の廊下
これらがすべてカード使用禁止エリアに指定された。
大山トキヤは、掲示板の前でその通知を見ながらつぶやいた。
「ようやく、って感じだな」
今日も彼はネクタイを緩め、シャツの袖をまくり、気だるげな目つきで歩いている。
ミオが声をかけると、彼は少しだけ笑って答えた。
「便利なもんってさ、最初は助けになる。でも、当たり前になったとき、誰かが犠牲になるんだよ」
その言葉に、ミオは自分のポケットにある《一目惚れの再定義》をそっと握った。
──カードは、使うべきなのか。
使わないことで、何かを守れるのか。
彼女の中で、はっきりしない問いだけが積もっていった。