テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#勧善懲悪
#勧善懲悪
翌朝、サペたちは公民館の空き部屋へ資料を広げた。
ルドヴィナが渋い顔で運んできた長机の上に、ンドレスが持ち出した封筒の中身が並ぶ。相談記録、買収の段取り、店ごとの注意点、そして赤字で書かれた短い欄。
「弱点」
マイナがその見出しを読み上げた瞬間、部屋の空気が冷えた。
ある菓子店には「原材料高騰で資金繰り不安」。
ある飲み物屋には「店主、秘密の交際あり。噂に弱い」。
ある手芸店には「断れない性格。代理交渉で押せる」。
人の悩みや事情が、救うための手がかりではなく、値段を下げるための材料にされている。
ジュレイが一枚抜き取った。
「土地の査定額の横に、相談内容が並んでる」
ズジが唇を噛む。
「これ、最初から買う値段を下げるために聞いてたんだ」
サペは黙って紙を見ていたが、やがて一枚を裏返した。
そこには祖父の時代の紹介札の写しが添付されていた。
困りごと、紹介先、備考。たったそれだけ。金額の欄はない。
「じいちゃんたちの名刺は、助ける先を書いてた」
サペの声は低い。
「こいつらの名刺は、折る場所を書いてる」
ンドレスが壁際に立ったまま言う。
「チョムは、悩みがあるやつほど交渉が早いって言ってた」
その言葉に、ピットマンが机を叩いた。
「早いから何だよ」
「だから使ったんだろ」
ンドレスも抑えず返す。
「そういうやり方を」
空気がきしむ。
けれど今回は、サペが先に声を出した。
「今は殴り合ってる場合じゃない」
みんながそちらを見る。
サペは、弱点と書かれた欄へ指を置いた。
「これ、全部ひっくり返す。悩みを抱えてることが値引きの理由にならないって、町ごと見せる」
エリアが机の端を握りしめ、うなずく。
「うん。向こうが値札をつけたなら、こっちは値札のつけられないものを並べる」
ズジが顔を上げた。
「記事だけじゃ足りない。証拠と、声と、舞台がいる」
その言葉に、箱庭座の暗い幕が全員の頭に浮かぶ。
最後の勝負は近い。
黒い名刺が集めた悩みを、今度は守るための証拠へ変える時が来ていた。