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#勧善懲悪
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夜、公民館の空き部屋で最終確認が始まった。
資料、動線、誰がどこへ入るか、誰が外で町の人を守るか。リボルが白い紙へ手早く線を引き、マイナが時刻を書き込む。
その輪の外で、カレルだけが何度も自分の鞄に触れていた。
エリアが気づいて首を傾げる。
「どうしたの」
カレルはびくりと肩を揺らし、それから意を決したように鞄を机へ置いた。
「まだ、あるの」
中から出てきたのは、木でできた小さな裁縫箱だった。
可愛らしい花模様のふたを開けると、糸巻きや針山に混じって、小さな筒が二本入っている。
テオファイルが目を細めた。
「録音筒か」
カレルは頷く。
「前に預かったやつ、もし壊れたら嫌だったから……複製、作ってもらってた」
声は小さい。けれど、机の上の誰よりもはっきり聞こえた。
サペが思わず聞き返す。
「いつ」
「第……ええと、まだみんなに全部言う前」
カレルはしどろもどろになりながらも言葉を続ける。
「私、いつも遅いから。だったら、遅くても残る方を選ぼうと思って」
ズジが口元を押さえて笑う。
「すごいじゃん」
「怒らない?」
「怒るわけないでしょ」
ジュレイが筒を受け取り、傷の有無を確かめる。
「これで最悪の事態は避けられる」
カレルはほっとしたように肩を落とした。
その顔はまだおどおどしていたが、芯の部分だけは前よりずっと動かない。
「控えめでも、備えることはできるんだね」
エリアが柔らかく言う。
カレルは耳まで赤くしながら、小さく笑った。
「たぶん」
ピットマンが親指を立てる。
「たぶんじゃなくて、できてる」
机の上に置かれた二本の録音筒は、地味で、小さくて、見た目だけならたいしたものには見えない。
けれど今夜、それは町の未来を支える二重底になった。
目立たない人が、目立たない場所で残していた備えが、いちばん痛いところで敵を止める。
そういう勝ち方は、この町によく似合っていた。