「奈美。幸せになるのよ」
「ありがとう…………お母さ……ん……」
しばらくの間、抱擁をした後、母は彼に向き直り、丁寧に一礼する。
「豪さん。奈美の事……よろしくお願いします」
「結婚と同棲を許して下さり、ありがとうございます。改めて、よろしくお願い致します」
豪も引き締まった表情を浮かべながら、再度深くお辞儀をしている。
挨拶を終え、実家を出る時、母は『また二人でいらっしゃいね〜』と言いながら見送ってくれた。
***
豪のマンションに引っ越ししてきた日。
二人が初めて出会った日の、ちょうど一年後。
その日の晩御飯で、彼女は初めて豪に手料理を振る舞った。
豚のひき肉と椎茸のトマトソースパスタに卵スープ、フレッシュハーブのサラダ。
品数は少なめだけど、彼は顔を綻ばせながら『美味い』と言って食べてくれる。
「パスタソースも奈美の手作りか。すげぇな。マジで美味いよ」
「一人暮らししてた頃は、楽だからって理由で、炒め物のおかずばっかり作ってたけどね」
大好きな人と食べるご飯って、こんなに美味しいって事を、奈美は初めて知った。
この先、彼と一緒にいる事で、初めての経験が色々あるのかと思うと、ワクワクしてくる。
「奈美は結婚してからも仕事を続けるんだろ? 疲れている時は無理して飯を作らなくていいからな?」
「うん、ありがとう。でも、なるべく作るようにする。本当に料理のレパートリーが少ないから、ネットで色々レシピ探しするよ」
これからの生活の事、結婚式はどうするかなど、彼と話しながら食事を済ませると、豪が後片付けと洗い物をしてくれるという。
「今日は越してきたばかりだし、奈美も疲れてるだろ? とりあえず座ってろ」
彼がキッチンで手早く片付けと洗い物を済ませた後、一緒にお風呂に入る事にした。
互いの身体を洗い、バスタブに浸かりながら時々キスをする。
「ああ……。俺、今日から奈美と一緒に暮らし始めたんだよなぁ……」
しみじみとした口調で呟く豪に、奈美は思わず、クスっと小さく笑った。
こんな口調で話す彼を見たのは、初めてだったから。
「そうだよ。一年前には考えられなかった事だけど……大好きな人と一緒にいられるのは、すごく幸せな事だよね」
奈美が照れ混じりの表情を見せると、不意に後ろから、彼女を抱きしめている彼の手がソロリと二つの膨らみを弄り始め、首筋に唇を這わせてきた。