テラーノベル
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#玉座がメインヒロイン
#漫画原作希望
ズリオチール王国にある街『ワイファイ・ツカエナーイ』。
ちゃんとワイファイの電波が飛んでくるのは、不思議でならない。
ネコ科フェの経営が順調だったレンタロウは、別の店を開いた。
15歳で成人あつかいのこの国では、レンタロウは立派な大人。
彼のようなボンクラでも、お金さえあれば、なんでもできるのだ。
人間の欲望渦巻く歓楽街『スッスキーノ(通称:親不孝商店街)』。
お子様がうろつくにはちょっと早い、赤や桃色のランタンが怪しく輝く街だ。
楽園に集いし男たちのギラつく視線を浴びながら、レンタロウは店の看板を見上げる。
『大人の楽園デイドリーム』
競合店が軒を連ねるこの街で、サキュバスカフェを構えた。
オスを惑わす魅惑の生物“サキュバス”たちが、男性客を骨抜きにする、わりと健全なカフェだ。
「お客さん良いサキュバスいますよ?」
営業時間中におけるレンタロウの主な仕事は、お客さんの呼び込みだ。
レンタロウひとりではない。新人のサキュバスと一緒だ。
指名料バリ高のいわゆるカリスマ・サキュバスが、呼びこみをすることはない。
「頭部バーコードの社長さん! サキュバスに癒されていきませんかぁ?」
レンタロウの隣に佇むサキュバスが、“死んだ人間”のような目をしたおじさんに声をかけた。しかし、おじさんは遠くを見つめながら店を通り過ぎていった。
「新人ちゃん。カタコトで“シャッチョサン”にしようか。この業界に不慣れな感じを出すといいよ。あとね、あのおじさんはアンデッドだから」
一度断られれば、しつこく追い回すことはない。
ただ、入ろうか入るまいか店の前で悩んでいるお客さんがいれば、そっと背中をケリ飛ばして後押しすることはある。
「ねえ、店長。その人をウチの店に呼びます?」
サキュバスが迷える子羊を発見した。
青年がサービス券を握りしめ、恥ずかしそうに隣の店の前をウロチョロしている。
「そうだね。駆け出し冒険者っぽいから、隣の店に放り込もう。じゃあ、新人ちゃん。ひと押し頼む!」
新人サキュバスが音もなく青年の背後へと忍び寄る。
羽交い絞めにすると、そのまま反転。店の入り口に背を向けた。
「そいやっ!」
バックドロップで青年を隣の店へと放り込む。
ごふっと声をあげた青年は、隣のモンスターハウスに吸い込まれていった。
「サ、サービス券つかえますか?」
「男は黙って六時間コースだろぉがぁ!」
青年と店員のやりとりが聞こえる。
ちなみに、うちの隣は亜人が経営するヌルヌルプレイが楽しめるマッサージ店だ。
レンタロウの店とは競合関係にあるが、売り上げに貢献してやることにした。
持ちつ持たれつというやつだ。
こうした細かい努力により、この界隈で着々と人脈を築きつつあった。
「おはようだぞっ!」
サキュバスとの繋がりも、その人脈のひとつ。
眠そうな顔で出勤してきた全裸のサキュバスの名は『メリッサ』。
ネコ科フェ時代からの付き合いだ。
サキュバスカフェのオープンにともない、ここで働いてもらっている。
「表から入ってな」
レンタロウがクイっと店の入り口を指さす。
「ふぁ~い!」
元気よく返事をしたメリッサ。
ニコリと笑った口元から八重歯が顔を出す。
先端がハート型になった長い尾を引きずりながら店の中へと消えていく。
店の裏手に通用口はあるが、正面の入り口から入ってもらっている。
お客さんにわざと見せるためだ。
続々と出勤するサキュバスたちを、人間の男性たちの目が追いかける。
お客さんがひとり、またひとりと店に吸い込まれていく。
幸運なことに、レンタロウの店は満員御礼状態。
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております!」
レンタロウは、恍惚とした表情のお客さんを見送った。
サキュバスが、いい仕事をしてくれたらしい。
サキュバスからの濃厚なサービスを受け、四つん這いで力なく移動するお客さんの姿は、まさに骨抜き状態。
ほとんどのお客さんは、こうして四足歩行で帰路につく。
音声が大音量で流れ出る店内を覗いたリザードマンが目を細めて歩み寄ってくる。
笑顔らしいが、いまひとつ表情がわからない。
「お前の店は相変わらず景気がよさそうだな」
「おかげ様で。それはそうと、うるさくてすみません」
「いいって。ウチもマネしてドアは開けっ放しだから、お互い様だ」
店内のサキュバスの明るくにぎやかな声、ときに卑猥な音声を大通りにいるお客さんに向けてわざと流している。
視聴覚に訴えるこの作戦が功を奏したのか、施行前より客足が伸びた。
同様のことを隣の店もやり始め、やがて街中に慣習がひろがっていった。
いまでは、大通りはうるさくて仕方がない。
今日も今日とて、サキュバスたちの黄色い声と、お客さんの鼻息が飛び交い、盛り上がりをみせている。
「僕は店内の様子を見てくるから、新人ちゃんは呼び込みを続けておいて」
エントランスをくぐると、童貞と七三分けのおじさんを爆死させる装いのサキュバスらが出迎える。
「天国という名の地獄へようこそ、ご主人様!」
総勢20名のサキュバスが二手に別れ、1本の道を作る。
左右どちらを見てもほぼ全裸のサキュバスしか視界に入らない。
良い香りに包まれ、大半の駆け出し冒険者は、この道で萌え死ぬことから“デス・ロード”と呼ばれている。
デス・ロードを通過し、オープンスペースに足を踏み入れる。
さきほど全裸出勤を決め込んだメリッサが、露出度高めの衣装を身につけ『萌えキュン』コースで七三分けのおじさんをもてなしている。
衣装とはいっても、ただのバンソウコウだ。
左右の胸のポッチ部分にバンソウコウを『X X』という感じに貼っている。
下半身に目を向ければ『Y』な感じでバンソウコウを縦に貼り、大事な部分を気持ち程度に隠しているだけだ。このファッションを“メリッサ2XY”と、レンタロウは呼んでいる。
「“ふりふりしゃかしゃか・ミックスジュース”ひとつ入りましたぁ!」
メリッサが叫ぶ。
シェイカーとおそろしく原価の安いジュースの素が、テーブルへと運ばれてくる。
「メリッサが“ふりふり”って言ったら、おっさんも同じこと言うんだぞ! 言うこときかねえと、つむじをもう一段階へこませっからな!」
おじさんのつむじは陥没している。
すでに一段階へこまされているようだ。
「わ、わかったよ……」
つむじを押さえながら、おじさんは軽く咳払いをして喉の調子を整える。
「じゃあ、いくぞ! ふりふり!」
「ふりふり……」
おじさんが呟く。
「しゃか~♪ しゃか~♪」
「しゃか、しゃか……」
照れているのか、蚊の鳴くような声を発したおじさん。
「おっさん、声が小さいぞっ!」
メリッサは耳に手を当て、おじさんをあおる。
「おっさん、もう1回いくぞ! ふりふり!」
「ふりふりぃ!」
声を張るおじさん。
「おっさん、うっせえぞ!」
おじさんは、つむじを2段階陥没させられた。
割って入ってストップをかけたほうがいいのだろうか。
でも、おじさんは楽しそうなんだよな……。
メリッサは、ひとりで歌いながらシェイカーを胸に挟みブルンブルンとシェイクする。
出来上がったジュースをグラスに注ぐ。
長時間谷間に挟んでいたため、泡立ったジュースは生温かそうだ。
無邪気な笑顔でジュースとおじさんの目を見つめながら「おいしくな~れ!」とまじないをかけた。
完成したジュースをおじさんに渡すと見せかけて、メリッサ自身の喉に流し込んだ。
「これは自分用だぞっ!」
メリッサはジュースを飲み干すと、おじさんが頼んでもいないミックスジュースを追加注文。ジュースの素を少し水に投入しただけの“ほぼ水”をおじさんにふるまった。
「ねえ、メリッサちゃん。味しないよ、これ……」
ほとんど混ぜていないため、グラスの底には悲しそうにジュースの粉が沈殿している。
おそらく無味無臭だろう。
「ねえ、ワックスで固めた七三分けのおっさん。フルーツの盛り合わせ頼んでいいですかぁ?」
メリッサが甘えた声でおじさんに無茶振りをしている。
もちろん、メニューにフルーツ盛りはない。
飲料や料理などをメリッサが勝手に創作してくれるため、レンタロウは対応に困ることがしばしば。
メンドくさいので、適当に見繕った小ぶりのスライムをフルーツ盛りっぽくして適当に出している。場合によっては、オムライスを提供することがある。
「ねえ、メリッサちゃん。もう、おなかいっぱいだよ……。これで5杯目だし」
「おい! メリッサのオムライスが食えねえとか抜かす気か!」
魔族の顔に天使の笑顔を貼りつけたメリッサは、おじさんを始末する気だろうか。
「食べるけどさ……。それよりね、懐が厳しいんだけど……」
おじさんを笑顔で見つめるメリッサが、横にした親指をクイっと動かした。
お金を借りてこいというサインだ。
「お絵描きターイム! おっさんはどんな絵を描いてほしいんだ?」
「そうだな、うさぎを描いてもらおうかな……」
5人前のバカでかいオムライスに絵を描くメリッサ。
「完成したぞ!」
「これは一体なんの絵なんだい?」
アンデッドみたいな顔をしたおじさんが、ゲージツ的なオムライスを凝視している。
「地獄絵図だぞ。地獄で亡者が苦しむありさまを描いた絵だぞっ! バールのようなものを持ったウサギにぶっ飛ばされてんのが、おっさんだぞ」
甘えた声ですごいこと言ったねメリッサ。
この子はツンデレなの? ツンバカなの?
困惑しながら、レンタロウは様子をうかがう。
「食欲が失せるくらいすごい絵だね……」
またひとり、メリッサがお客さんの財布と心をヘシ折った。
こうした和やかな感じのやりとりがオープンスペースのそこかしこで行われている。
サキュバスは夢の中に現れて男性を誘うと言われる。しかし、この店に在籍するサキュバスたちは、客の財布と体をゴリゴリと攻め立てるのだ。
メリッサたちの頑張りで、店の客単価は異常に高い。
ボロ儲けだ。
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