テラーノベル
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蓮司(壁の色とりどりのポスターを眺めながら)
「……いや、毎年思うけど、部活のポスターってなんでこんなテンション高いの?」
日下部(眉をしかめて)
「“青春!”とか“仲間が待ってる!”とか、どれも似たようなこと書いてあるな」
遥(ぽつりと)
「“仲間”って……どっから来る前提なんだろ。そんなもん、最初から持ってる人しか選べないじゃん」
蓮司
「おっ、それ言うと部活の神話崩壊するぞ。“繋がりを作ろう!”っていう大義名分、脆っ」
日下部(腕を組んで、じっとポスターを見つめ)
「……俺、入ってるけどな。数学研究会」
蓮司(肩をすくめて)
「それ部活ってよりも、ほぼ独居房じゃない? 誰かいた?」
日下部
「いた。一人。俺と同じで無言で数式書いてるやつ」
遥(クスッと笑う)
「……それ、なんか安心する」
蓮司(笑いながら)
「いや逆に怖いから。机並べて、無言で公式だけ書き続けてるとか、儀式? 召喚するの?π?」
日下部
「πは呼ばない」
蓮司(別のポスターを指差して)
「で、遥くんは? “新歓ライブで盛り上がろう!”とか“汗と涙の体育会!”とか、刺さる?」
遥(無表情で)
「“汗”も“涙”も、勝手に出るもんだから、わざわざ出したくて動く意味がわかんない」
蓮司(ふっと笑って)
「うん、それな。お前の辞書に“部活”って単語、載ってないだろ?」
日下部
「入ってないのか?」
遥(少し間をあけて)
「何かに入った記憶って、あんまないかも。クラブとか班とかも。いつも……はじっこだったから」
蓮司
「“はじっこ”っていうか、もう異次元にいたよな。中学のときも、ずっと自習室にいたって噂あったし」
遥(軽く鼻で笑って)
「自習室っていうより、掃除用具入れ。鍵は壊れてるから隠れるにはちょうどいい」
日下部(少しだけ顔をしかめる)
「……なんで隠れる必要あったんだよ」
遥(目をそらして)
「べつに。誰にも呼ばれないのに、いる理由探すのってめんどくさいから」
(短い沈黙)
蓮司(空気を変えるように)
「でもさ、お前が部活入ったら絶対面白いと思うけどな〜。“対人交流部”とか作ろうぜ。“人と距離を測る部”」
日下部(ふっと笑って)
「“適切な間合いをとれるようになるまで卒業不可”みたいな」
遥
「じゃあ俺、退学一直線だな」
蓮司
「だろうな。お前、初対面のやつに“それ俺が悪いの?”って言い出すタイプだし」
遥(首をかしげて)
「……え、普通言わない?」
日下部
「言わねえよ」