並んでベンチに座りながら、優羽は岳大に聞いた。
「これから山に泊まり込んで撮影をするのですか?」
「はい、でもこの様子だと明日は雨かもしれないね。もし夜にまでに雨が上がれば数日山に入って撮影に集中します」
その言葉に優羽は頷いてからまた聞いた。
「今回も『水面に映る星』を撮影されるのですか?」
「うん、二年前に撮った構図でまた再チャレンジしますよ。星空ってね、不思議な事に何度撮っても全く同じ写真は撮れないん
ですよ。撮る度に違う。そこが魅力なんだけれどね」
そう言って笑った。
岳大の笑顔を見るとなぜか安心感を覚えるので優羽は不思議だった。
「一つ聞いてもいいですか? 鉄道会社のポスターのキャッチコピーに『みくりが池に落ちた星屑を拾いに来ませんか?』って
ありましたが、あれは広告会社の方が考えたのですか?」
優羽は自分が繰り返し見る夢に似ているコピーの事が気になり、思い切って聞いてみる事にした。
「あれは僕が考えたんですよ。というか、打ち合わせの時に適当に言った言葉がそのまま採用されただけなんです」
岳大は恥ずかしそうに笑いながら答えた。
あのポスターには何か見えない運命のようなものを感じていた優羽は、あのコピーが岳大の発案だったと知りさらに驚く。
「私、いつも同じ夢を見るんです。目の前の湖に星がいっぱい映り込んでいて、まるで星屑が落ちているようで…それを拾う夢
を。それを全部拾わないと幸せになれない……夢の中ではなぜかそう思っていて、必死で拾うんですけれど全部は拾いきれず
にいつもそこで目が覚めて。そんな時あのポスターを見たのでドキッとしました。『星を拾う』という言葉が夢と全く一緒だっ
たので」
そこまで言ってから優羽はハッとする。
なんでこんな事を出会ったばかりの人にべらべらと話しているのか?
優羽は急に恥ずかしくなりそのまま押し黙る。
すると岳大が言った。
「星を一つ残らず消す事は簡単ですよ。いつか僕が全部拾ってあげますから安心して下さい。あなたはきっと幸せになれま
す」
岳大は目尻に皺を寄せて優しい笑みを浮かべた。
全てを包み込んでしまいそうなその包容力に溢れた笑顔に、思わず優羽は引き込まれる。
そして星を全部拾う事なんて本当にできるのだろうか? そう思いながら再び夜空を見上げた。
一面空を覆っていた雲が少しずつ移動を始めている。
その雲の間から星屑がキラキラと輝いていた。
優羽が夜空の星を眺め続けていると、岳大が静かに言った。
「山で一人キャンプをしながら撮影しているとね、凄い孤独を感じるんです。まるでこの地球上に、いや、宇宙にたった一人だ
けで佇んでいるような。でもね、その孤独感は寂しさとか悲しさではなくて、自由で解放された感じっていうのかな? だから
山で撮影は楽しみでもあるんですよ」
「解放された感じですか? それってなんか羨ましいです。日常のあれこれから解放されて自然に抱かれる感じですよね? 羨
ましい。私もそんな体験してみたいです」
優羽がそう言って笑うと、岳大が言った。
「機会があったらいつか山へ! 是非体験してみてください。人生観が変わりますから」
「はい、是非。私、流星がもう少し大きくなったら、初心者コースの登山道を回ってみようかなって思っているんです」
「それはいいですね。流星君もきっと山から学ぶ事がいっぱいあると思いますよ。それは生きていく上での支えや助けになって
くれるかもしれない」
「私もそう思います。子供が自然と関わる事は大切だなって思っているので…これから色々体験させてやりたいです」
優羽はそう言って穏やかな笑みを浮かべた。
「明日からの撮影で良い写真が撮れたら優羽さんに送りますよ。今はまだ登山には行けないかもしれませんが、その写真を見て
雰囲気だけでも感じ取って下さい」
岳大の言葉に優羽はびっくりする。
「プロの写真家が撮った写真を一番先に見られるのですか?」
優羽は、信じられないという顔をしている。
「はい。毎日お母さん業とお仕事を頑張っている優羽さんにささやかなプレゼントです」
岳大はそう言いながら連絡先を教えて下さいと言って携帯を取り出したので、
優羽はすぐに岳大に連絡先を教えた。
その後、優羽は「楽しみにしています」と言ってベンチから立ち上がると、
「もうそろそろ戻りますね。おやすみなさい」
と岳大に言った。
岳大も、
「おやすみなさい」
と笑顔で返す。
優羽は軽く会釈をすると、山荘へ戻って行った。
岳大は優羽の後ろ姿をしばらく見つめていたが、次の瞬間ふと視線を夜空へ向ける。
すると先ほどよりも大きく開いた雲間からは、星々が燦然と輝いていた。
コメント
5件
あれっ今更だけどもしかして岳大さん優羽さんに一目惚れしてたの?僕が全部拾ってあげますからって何気なく告白に聞こえるのは私だけ?🤭🤭🤭
僕が💫全部拾ってあげますから。あなたを幸せに……🤭🩷もう愛が溢れとる🥹✨ 連絡先も交換したし、これからどんどん距離が縮まるね(*´艸`*)💕
この回はある意味神回だと思います。2人の間に確かに惹かれ合う、近づく沢山の言葉が散りばめられていたと思います。 いつか全部拾ってくれると、幸せになれると…⚝⋆︎*⚝⋆︎*⚝⋆︎*3人で…