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教室の空気は何も変わらない。騒がしさも、沈黙も、誰かの咳払いも、窓の外の鳥の声すらも、全てが同じ。  けれど、遥のなかで、何かが確かに削れた。
「おはよ、遥くん。……顔色、悪い?」


 笑いを含んだ声が飛ぶ。いつも通り。声をかけたその生徒の視線が、机の上の傷跡にわずかに流れた。  誰がつけたかも、いつからあるかも定かでないそれは、もう「風景」の一部だった。


「……平気」


 遥は短く返した。  返した直後に、どこかから「喋った」と囁き声が上がる。


 クラスの誰かが立ち上がり、また誰かが笑う。まるで反応の実験をしているかのように。


「なあ、昨日の点、誰が一番だった?」 「顔は小田、声は真田。リアクション的には遥の“殺すぞ”が一番ウケた」 「でもさ、あれ使い回しじゃね? もうちょい新作ほしいよな」


 教室の隅で、評価会が開かれていた。  その会話が、遥に聞こえていることを知った上で、彼らは声のボリュームを上げる。


 遥は、ノートを開いた。  文字はほとんど読めなかった。視界が揺れていた。けれど、書くふりをやめなかった。  何もしないと「異常」になるから。


「──あ。今日、紙きてた。回収ボックスな、前のロッカー」


 小さな紙片が机に投げられる。折り目がついているそれを開くと、ただ一言、こう書かれていた。


『次、水曜。場所変わる』


 その瞬間、遥の耳の奥で、何かがひび割れたような気がした。


 変わる? 何が? 誰が? どうして?


 教室のなかで、笑い声と雑音だけが延々と続いていた。  誰もが普通の顔をしていた。


 彼らにとって、それは「秩序」の中の出来事だった。  教科書、黒板、チャイムの音と同じように。


 地獄もまた、風景の一部だった。

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